引越し先の賃貸物件は虫屋敷だった… 「住むことはできる」すぐに修繕に動かない家主にイライラ

引越し先の賃貸物件は虫屋敷だった… 「住むことはできる」すぐに修繕に動かない家主にイライラ

新居が「虫屋敷」なのに、大家が何もしてくれなくて困っている——。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者が新しい賃貸物件に引っ越したところ、ゴキブリやムカデが家の中に頻繁に出現。防虫剤などを使っても効果がないため、害虫駆除業者に依頼したところ、トイレとお風呂場の壊れた換気扇やベランダの土台にある亀裂から侵入されていることを教えてもらいました。

そこで、大家に連絡しましたが、「修繕しなくても住むことはできる」と言われてしまい、対応してもらえなかったようです。

「虫の出現に日夜おびえて精神的に参っているという」という相談者としては、この不十分な居住環境は大家の責任であり、場合によっては自己負担ゼロの退去も検討しているようですが、法的にはどうなのでしょうか。白土文也弁護士に聞きました。

●亀裂からの侵入なら「大家に害虫駆除と修繕の義務あり」

──一般的に、賃貸物件で虫の発生を抑えることは大家の責任になるのでしょうか。

賃貸人は、契約の目的や目的物の性質に従って賃貸借契約の目的物を使用収益させる義務を負っています(民法601条)。

今回のケースでは、ゴキブリやムカデが頻繁に出現している状況とのことですが、一般的には平穏に居住できる状況とはいえないと思いますので、大家は害虫駆除を行う義務を負っているといえるでしょう。

もっとも、賃貸人としても不可能を強いられるべきものではありませんので、害虫駆除業者に依頼するなど大家としてやるべきことをやった以上は、完全に駆除を達成できなかったとしても責任を負わないとする裁判例があります。

──虫の発生原因が、壊れた換気扇やベランダの土台にある亀裂からの侵入という場合はどうですか。

害虫駆除業者の調査の結果、壊れた換気扇やベランダの土台にある亀裂が害虫の発生原因となっているとのことですが、これらの状況はいわゆる建物に瑕疵(かし)がある状態です。

大家としては害虫駆除をするだけでなく、賃貸人としての修繕義務を履行しなければなりません(民法606条1項本文)。もし修繕等をしなければ、債務不履行責任を負うことになるでしょう。

──相談者は害虫駆除業者に依頼していますが、この費用を大家に請求できますか。

大家が修繕をしておらず、害虫駆除も賃借人である相談者が行っていますので、相談者は大家に対して、賃貸人の債務不履行に基づく損害賠償請求として害虫駆除費用を請求することが可能です。

──虫の大量発生を理由に退去を選択した場合、原状回復や引越し費用を大家に負担してもらうことは可能でしょうか。

大家が害虫駆除や建物の修繕義務を尽くしている場合は、賃貸人としての債務を履行していることになり、引越し費用を大家に負担させることはできませんが、今回のようなケースでは、大家の債務不履行を理由とする賃貸借契約の解除をしたと評価できるでしょうから、引越し費用について損害賠償請求することが可能でしょう。

一方で、原状回復費用については、賃貸借契約の内容に従って、賃借人が負担すべき費用については負担することになります。

ただし、有効な特約がある場合は例外として、原則としては、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化については原状回復義務の対象外とされています(民法621条)。

そのため、仮に入居して間もない時期での退去ということであれば、実際には原状回復費用を負担しなくて済む可能性が高いと思われます。

【取材協力弁護士】
白土 文也(しらと・ぶんや)弁護士
第二東京弁護士会所属。2005年、司法試験合格。合格後、ベンチャー企業で2年間勤務。司法修習を経て都内法律事務所に勤務。中国上海市の法律事務所で1年間の勤務の後、2014年、白土文也法律事務所を開設。遺産相続、民事信託(家族信託)・後見、事業承継、廃業支援(会社の解散・清算)、不動産問題など超高齢社会向け業務と中小企業や税理士・司法書士など士業の顧問弁護士業務を中心に取り扱う。
事務所名:しらと総合法律事務所
事務所URL:https://shirato-law.com/

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