「お酒は百薬の長」という古い言葉のように、程よい飲酒は私たちの体に良い影響をもたらします。
血行を良くしたりリラックス効果があったり、初対面の方でも一緒にお酒を囲めば、心の距離が一気に縮まることもあるでしょう。
しかし、過度な飲酒が重なると「お酒は万病のもと」へと豹変します。
この記事では、お酒が原因の数ある症状の中でも、アルコール依存症に焦点を当てて解説します。
原因や治療法・予防方法について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
≫「アルコール性肝障害」を発症すると現れる症状・飲酒以外の原因はご存知ですか?
※この記事はMedical DOCにて『「アルコール依存症」になると現れる初期症状はご存知ですか?医師が監修!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
アルコール依存症の診断方法と治療方法
アルコール依存症の診断方法が知りたいです。
アルコール依存症の診断を行うのは、専門医です。精神科や心療内科、内科などを受診しましょう。診断基準はWHOにより定められています。
脅迫的飲酒欲求:飲みたいという強い欲求がわきおこる。
コントロール障害:飲酒の開始や終了、また飲酒量に関して、行動をコントロールするのが難しい。
離脱症状:飲酒を中止したり減量したときに離脱症状が出る、こうした症状をやわらげたり避けたりするため飲酒する。
耐性:かつてと同じ量では酔わなくなる、酔うためにより多く飲む。
飲酒中心の生活:飲んでいる時間や酔いをさますための時間が増え、それ以外の楽しみや興味を無視するようになる。
有害な結果が起きても、やめられない:たとえば過度の飲酒による肝臓障害、抑うつ気分状態、認知機能障害など、明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として飲酒する。
上記の6項目のうち3項目以上、もしくはコントロール障害・飲酒中心の生活・離脱症状の3項目のうち2つ以上が認められる場合にアルコール依存症と診断されます。アルコール依存症は精神や行動の障害として認識されており、治療のためには医療機関への受診が必須です。
どのような検査を行うのですか?
検査では患者の状態を診て、先述のWHOによる診断基準に基づいて検査が行われます。アルコール依存症の早期発見のツールとして、アルコール使用障害同定テストを実施することもあります。
ただこちらはあくまでスクリーニングであり、診断基準ではありません。本人が依存を自覚していなかったり、飲酒の離脱症状がなかったりする際に、アルコール依存症である可能性を示唆するために活用するのが一般的です。
治療方法を教えてください。
アルコール依存症を治療するためには、断酒が欠かせません。そのためには、断酒治療と断酒を続けていくための心理社会的治療が必要です。断酒治療ではまず、アルコール依存症という病気への理解を深め、断酒治療を進めていくための動機づけを行います。
一般的には入院して治療していくことになるので、断酒による離脱症状が起きても心配は要りません。アルコールの解毒が完了し、離脱症状が回復したら、断酒のリハビリが始まります。断酒はアルコール依存症の方にとって大きなハードルですが、治療方法には薬剤の力を借りる方法もあるので安心してください。
例えば、抗酒薬としてジスルフィラム(商品名:ノックビン)とシアナミド(商品名:シアナマイド)があります。これらの薬剤は、服用中に飲酒すると血中アセトアルデヒド濃度が上昇し、嘔吐・頭痛・呼吸困難などの不快な症状を引き起こす作用があります。そのため、飲酒したくなっても「体調不良になるからやめよう」と断酒を続けやすい心理状態にさせることが可能です。
他にも、断酒をしている方の断酒率を上げる効果のあるアカンプロサート(商品名:レグテクト)や、飲酒をしている方の飲酒量を減らす効果のあるナルメフェン(商品名:セリンクロ)なども非常に効果のある薬剤です。これらの薬剤を上手く組み合わせていくことで、なるべく無理なく断酒を続けていくことが可能となります。
心理社会的治療では、断酒の意志継続・断酒の習慣化を目的として行われます。将来何かあったとしても、安易にお酒に逃げないための考え方を身につける治療です。具体的な治療方法としては、酒害教育・個人カウンセリング・集団精神療法(同じ症状の方でアルコール依存症の問題について話し合う)・自助グループへの参加などがあります。
編集部まとめ
今回は、お酒を飲むことに対してコントロールができないほどにアルコールに依存してしまうアルコール依存症について解説しました。
アルコール依存症は決して特別な病気ではなく、お酒を飲む習慣がある方であれば誰でもかかりうる病気です。
しかし多量飲酒を避け、適量の飲酒を守ることを心がけていれば、予防できない病気ではありません。
アルコール依存症の正しい知識を身につけ、飲酒へのリスクをしっかり把握しておきましょう。
参考文献
アルコール依存症の症状とサイン(依存症対策全国センター)
飲酒の基礎知識(アルコール健康医学協会)
配信: Medical DOC
関連記事: