この街と5年  vol.01 広島県・廿日市市

この街と5年 vol.01 広島県・廿日市市

新たな街に移り住み、活躍する人にフォーカスし、その暮らしや想いをお聞きするこの連載。第1回となる今回は、広島県・廿日市市へ。女性料理人のドグエンチランさんに会いに行きました

海も山もあり、すぐ生産者に会える豊かな環境

ワインショップフジマルで働く夫の藤井千秋さんもソムリエとして店に立つ。8席のカウンターで、全7皿の料理に7杯のペアリングが含まれたコース22000円~を提供する

広島県西部に位置する廿日市市。瀬戸内海と宮島を望む高台の住宅街にある「CHILAN」は、東京生まれのドグエン チランさんが2019年に移住し、20年にオープンさせたモダンベトナミーズ。保育園の待機児童がゼロ、協力してくれる家族に近いという環境から移住を決意し、子育てと両立をしながら、週3日、基本的にはランチのみで営業。

瀬戸内の食材を使い、東京で培ってきたフレンチの技術を使って、自身のルーツであるベトナム料理のコースを提供し、そこに、夫でありソムリエの藤井千秋さんがナチュラルワインなどのドリンクをペアリング。その体験を求めて、全国からファンが訪れています。

生春巻きとオリジナルのシードル

「東京は最上級の食材が全国から集まる場所でしたが、私は生産者に直に会って、たわいもない話をしながら、その中で垣間見る農業や漁業のストーリーを知ったほうが、その食材への愛情がちゃんと持てる。それをお客さんに伝えることが、性に合っているなと。使う食材はほぼ全て会った方のものです」とチランさん。

対岸の宮島の大聖院からの眺めはチランさんのお気に入り

シグニチャーである生春巻きは、瀬戸内海に浮かぶ大崎上島で養殖される車エビと、広島県三次市の霧里ポークを使用。「これはベトナム人である私の母の味をなるべく忠実に再現した1 皿です。広島に来る前に実家に通い、レシピを教えてもらって。生春巻きは、日本で言う手巻き寿司みたいなもので、家庭によって巻き込む具材が変わるのですが、私の母は必ず生のもやしとミントを入れるんです。もやしのシャキシャキした歯応えと青みのある香り、ミントの清涼感のバランスがよくて、黄金比だと思っています」

牡蠣の魚醤を使った東広島産ナマズのチャーカーにはCHARLES TAPROOMのビールを

この街に移住してもうすぐ5年。「東京にいるときは、毎分時間に追われているような感覚でしたが、移住して独立したことで時間をコントロールできるようになりました。時間的にも肉体的にも精神的にも余裕があると、新しいことに挑戦したいときに、動き出すエネルギーがちゃんと残っている状態でいられます。今後は、自分らしさをどこまで追求できるか。今は、生春巻きをシグニチャーとしているけど、さらに『CHILAN』と言ったらこれという名刺代わりになるようなシグニチャーを確立していけたらいいなって思っています」

CHILAN 

チラン
住所/広島県廿日市市阿品4-2-39
営業時間/12:00~15:00(要予約。夜は貸切のみ営業) 
定休日/日~水・祝

「CHILAN」オーナーシェフ・ドグエン チランさん

ベトナム人の両親のもと、1988年東京都に生まれる。東京の飲食店、海外ワイナリー研修を経て、2019年夫の地元、広島県・廿日市市に移住。翌年、「CHILAN」をオープン。「RED U-35 2021」では「岸朝子賞」を受賞

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