「体調不良で予定していた出張に行くことができなかったのに、キャンセル料を会社が精算してくれません」。このような相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談を寄せた男性は、直前に急病となり予定していた出張をキャンセルしました。航空券などに一部キャンセル料がかかりましたが、「体調不良は自己負担になる」と言われ、会社から支払ってもらえていないそうです。
男性としては、「出張は業務命令なのに」と精算が認められないことに納得できないようです。キャンセル料は自腹になるのでしょうか。会社に支払ってもらうことはできないのでしょうか。労働問題に詳しい大西信幸弁護士に聞きました。
●必要経費なのに労働者が負担?
——出張がキャンセルになった場合のキャンセル料について、従業員は会社に請求できるのでしょうか?
そもそも出張旅費は実費弁償であり、労働の対価ではないので賃金ではありません。そのため、出張旅費やキャンセル料の負担について定めた法律上の規制はありません。一般的には、会社の内部規定に従うことになります。
多くの企業では、出張旅費やキャンセル料についてのルールを定めた出張旅費規程を設けています。一般的な出張旅費規程では、業務上の理由で出張が中止された場合、旅費やキャンセル料を会社が負担すると定められているケースがほとんどです。
例えば、取引先の都合や社内の事情によって出張が取りやめになった場合、業務に関連する費用とみなされ、会社がキャンセル料を負担することになります。
——今回のケースのように、「体調不良による出張キャンセルの場合は自己負担」という会社の反論は認められるのでしょうか?
従業員の体調不良など個人的な事情による出張のキャンセルについては、各会社の出張旅費規程によって扱いが異なり、原則として、その定めに従うことになります。ただし、本件の相談者のように出張直前に急病になった場合にキャンセル料を従業員に負担させることは、妥当ではないでしょう。
従業員の体調不良による出張の取り消しが出張旅費規程で定められていない場合、問題になることがよくあります。従業員の体調不良が業務上の負傷や疾病を原因とする場合は、会社がキャンセル料を負担するべきでしょう。
もっとも、二日酔いなど体調不良の原因が専ら従業員個人の自己管理の問題であった場合、従業員がキャンセル料を負担する可能性があります。
——業務のために必要な費用だったのに、従業員に負担させることには法的な問題はないのですか?
出張旅費のような業務遂行に必要な費用は、本来、会社が負担するべきものであり、従業員に負担させることは法的に問題が生じることがあります。従業員がキャンセル料を立て替えた場合、会社は従業員からの返還請求に応じるべきです。
上述した通り、二日酔いなど体調不良の原因が専ら従業員個人の自己管理の問題であった場合に、従業員がキャンセル料を負担することはやむを得ないと考えます。ただし、会社は、従業員にキャンセル料を負担させることには慎重になるべきでしょう。
【取材協力弁護士】
大西 信幸(おおにし・のぶゆき)弁護士
大阪府出身。平成18年3月立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻修了(法務博士)。平成19年9月新司法試験合格。平成20年12月大阪弁護士会登録(新61期)。平成21年1月〜23年12月大阪市内の法律事務所にて勤務弁護士、平成24年1月大西信幸法律事務所開設(代表弁護士)。労働問題のみならず、交通事故、借金問題、相続・離婚問題、刑事事件等、幅広く対応。所属:大阪弁護士会
事務所名:弁護士法人ラポール綜合法律事務所
事務所URL:https://rapport-law.com/
配信: 弁護士ドットコム