災害後3時間で4割の人がトイレに行きたくなる!排泄ストレスを防ぐためにやるべきこと

地震や水害で避難する時、排泄環境が整っているかどうかは、避難中の生活の質に大きく関わります。災害時のトイレについて研究し、啓発活動を続ける日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さんに、いざという時にやるべきことをうかがいました。

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水や食料よりトイレ対応が先

災害時に一番大切なのは、その場で命を守る行動を取ることです。急場をしのいだ後に安全な場所に避難する。その後に必要なのは、水や食料の確保だと多くの人がイメージすると思います。もちろん、水も食料も重要です。ただ、順番という観点で考えると、過去の調査で必要になったのは、実はトイレです。

2016年の熊本地震の後に実施したアンケート調査では、地震発生後3時間で約4割、6時間で約7割の人がトイレに行きたくなったと回答していました。あの大地震の後、3時間以内に水を飲んだり、食事をしたりする余裕はおそらくなかったはずです。過去に被災された方の教訓として、とにかく早い段階でトイレの準備をしておく必要があることがわかっているのですが、多くの人がそこに思い至っていないのが現実ではないでしょうか。

■地震後、何時間でトイレに行きたくなったか?


出典:平成28年熊本地震「避難生活におけるトイレに関するアンケート」(調査:岡山朋子(大正大学人間学部人間環境学科)協力:特定非営利活動法人日本トイレ研究所

水洗トイレは使えないと思った方がいい

では、具体的に何をすれば良いのでしょうか? 避難所にいる場合も自宅避難も基本は同じですが、ここではまず自宅避難の場合を考えてみましょう。

まず、トイレに行き、安全かどうかを確認します。天井が落ちてきていないか、窓ガラスが割れていないか、便器がずれていないかなど、いつもと違うところがないかどうかをチェックしましょう。

異常がないように見えても、そのままトイレを使ってはいけません。むしろ、大地震が起きたら水洗トイレは使えなくなると思った方がいいでしょう。

水洗トイレという「システム」

皆さんは水洗トイレというと便器を思い浮かべると思いますが、各建物の便器は排水管等を通じて下水処理場、あるいは浄化槽へとつながっています。洗浄水を確保するための給水管や、設備を動かす電気も必要です。停電や断水、給水管や排水管の損傷があったり、下水処理場が稼働していなかったりなど、このシステムのどこか一か所でも正常に機能していなければ、トイレは使えなくなってしまいます。便利だけれど、実は非常にもろいシステムなのです。

災害が起きた後、このシステムのどこかに不具合が生じているにもかかわらず、それに気づかずいつものようにトイレを使ってしまうと、流れていくはずの大小便が便器にとどまってしまうことがあります。すると、次の人が使えなくなり、トイレを我慢することが起きます。そしてトイレの我慢を強いられる環境下は体調悪化につながります。

落ち着いたらすぐに携帯トイレを取り付けよう

排泄は待ったなしです。こうした事態を避けるためにも、自宅避難をすると決めたら、トイレに大きな損傷がなければできるだけ早く携帯トイレを取り付けましょう。

携帯トイレは、便器に取り付けて使う袋式のトイレで、凝固剤を入れるタイプと吸収シートを入れるタイプの大きく分けて2タイプあります。1回ごとに袋の口を縛ってゴミとして保管します。自治体への確認が必要ですが、可燃ゴミとして処理できるところが多いようです。

携帯トイレは、自宅で避難するための必需品です。必ず備蓄しておきましょう。国の資料では、トイレに1日5回(目安)行くとして最低3日分、できれば7日分、用意しておくことを推奨しています。2024年元日の能登半島地震や同じ年の8月の日向灘での地震の状況を踏まえると、個人的には7日分の備蓄はあった方が良いと思います。

取り付けるにはコツがある

実際に取り付けるにはコツが必要です。便器には水が張ってありますよね。下水管からの悪臭や虫が来ないようにするために溜めておく「封水」と呼ばれるものです。携帯トイレをいきなり取り付けると、この封水と接触して水がポタポタとしたたってしまいます。

そこでまず、蓋と便座を上げて、45Lくらいのポリ袋を便器を覆うようにかぶせます。それから便座を下ろし、携帯トイレを取り付けます。

ももの裏にビニールがあたるのがイヤな人は、便座の下に携帯トイレをとりつけても使用できます。ただ、携帯トイレを便座の上からかぶせる方法だと、最後に外すときに間違って下の袋まで取ってしまうことを防げますし,便座も汚れにくくなります。


説明:まず45Lのポリ袋を便器を覆うようにかぶせて(上)、それから便座を下ろし、携帯トイレを取り付けた時の様子(下)。この携帯トイレは、この状態で用を足した後、凝固剤を入れるタイプ。

 


説明:YouTube動画【災害備蓄の必需品 携帯トイレについて】【オンライン日本トイレ研究所】(https://www.youtube.com/watch?v=8MFElt6f0Vk)を参考に読売新聞社が作成

保管場所も決めておこう

携帯トイレは、排泄が終わったら、1回ごとに便器から袋を外し、口を縛って一定期間どこかに保管しなければなりません。誰しも生活空間から排除したいと思うはずなので、ベランダや庭、倉庫など、保管場所を決めておくことも大切です。

この時、気を付けるべきなのが、「野ざらしは避ける」ということです。夏は温度も上昇しますし、日光の紫外線で袋も劣化します。衛生害虫やカラスからも守る必要があります。蓋付きの容器に入れることも選択肢の一つです。

臭気対策をして直射日光の当たらない高温を避けた場所で保管します。

ゴミとして捨てる時の注意点

ゴミ収集が再開されたら、使用済みの携帯トイレを自治体の指示に従ってゴミとして出します。収集の方法は自治体によって違いますが、可燃ゴミとして出す場合でも、「これはトイレゴミです」とわかるようにしておくとよいですね。ゴミ収集の人が、知らずにパッカー車(ゴミ収集車)に入れたところ、袋がはじけてしまい、排泄物を浴びてしまった例があります。

マンションなどの集合住宅では、トイレごみをまとめておくなど、出し方を決めておくのもいいでしょう。

ところで、大小便はほとんどが水分で、1人1日1~1.5Lぐらい排泄すると言われています。4人家族だと1日4~6L、重さに換算すると4~6kgにもなり、結構重いです。そのことにも留意しておく必要があると思います。

加藤篤さん

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

1972年生まれ。まちづくりのシンクタンクを経て、現職。災害時のトイレ調査や防災トイレワークショップの実施、防災トイレ計画の作成、小学校のトイレ空間改善を展開。「災害時トイレ衛生管理講習会」を開催し、防災トイレアドバイザーの育成に取り組んでいる。

著書『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)(写真下)、『うんちはすごい!』(イーストプレス)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)ほか。


                 写真説明:加藤篤さん


説明:加藤さんの著書「トイレからはじめる防災ハンドブック」

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