映画『Cloud クラウド』が9月27日より劇場公開中だ。本作の大きな売りは、主演の菅田将暉を筆頭とする豪華キャスト、そして世間から忌み嫌われる「転売ヤー」として「真面目」に働く主人公を追っていることだ。
2024年に黒沢清監督の作品が劇場公開されるのは『蛇の道』『Chime』に続き3作目。今回の『Cloud クラウド』は後述するように内容はわかりやすく、描写も過激すぎずG(全年齢)指定で、エンタメ性も高い。評価も高く、第97回米アカデミー賞国際長編映画賞部門の日本代表に選出されている。
ブラックコメディに両足を突っ込んでいる
あらすじはシンプルともいえる。転売屋の男の周囲で不審な出来事が相次ぐようになり、いつしか「狩りゲーム」の標的となってしまう、というものだ。
嫌がらせを受けるばかりか、命の危険にすらある状況は、ホラーとして怖い。転売業の先輩との掛け合いもスリリングで、恋人との掛け合いもどこか不穏さがあるし、そこかしこに「不安な種」が撒かれている。
さらには、予告編でも観られる銃撃戦が巻き起こるアクション映画にもなっていくし、終盤は「もう笑ってしまう」ほどに理不尽な事態に陥り、悪い冗談のようなサプライズも仕込まれているため、ブラックコメディの領域に両足を突っ込んでいる。
そのように複数のジャンルを横断していく特徴があるため、何よりも「面白い映画」を期待して観るのがいいだろう。
主人公は「真面目な普通の男」にも見える
劇中では商品の値段を釣り上げて利益をかすめ取る、転売ヤーのやり口がはっきりと描かれている。「恨みを買うのも当然だな」とも思えるし、そのせいで主人公がひどい目にあう様は「自業自得」「因果応報」だと感じる人もいるだろう。その一方で、彼が「真面目な普通の男」にも思えてくるというのが面白い。
ひとつひとつ転売の段取りをこなしていく様は「地道」にも見えるし、先輩からの怪しい誘いにも安易に乗ったりはしないし、恋人との関係や、仕事を手伝う青年への距離感もおおむね真っ当に思える。
転売屋を専業にする以前に働いていたクリーニング工場では、社長から「才能と忠誠心があるから、管理職としてやっていけるよ」などと言われていたりもするので、客観的にはまともな社会性があるのだろう。普段は口数が少ないのだが、限定品のフィギュアを買い占める際の交渉では口はむしろ達者で、詐欺師のようにも見える。
この映画はフィクションだが、「現実の転売屋もこうなのかもしれない」と想像がおよぶだろう。描かれるのはあくまで転売屋の日常と、それから起こる悪夢のような事態であるが、転売屋という職業の良し悪しを単純にジャッジしたりしない。だからこそ、転売ヤーという蔑称に収めるだけではわからない、その仕事や人間性を客観的に認識できるというのは、本作の大きな意義だ。
配信: 女子SPA!