3、罰金刑でも前科がつくことによる悪影響
罰金刑に処されて前科がつくことによって、以下5つの場面への悪影響が懸念されます。
仕事への影響
結婚への影響
経済生活への影響
海外旅行への影響
再犯時への影響
(1)仕事への影響
まず、就職活動・転職活動時に、罰金刑による前科が影響することがあります。
たとえば、企業が指定する履歴書に賞罰の項目が掲げられている場合や、面接時に前科の有無を問われた場合、罰金刑に処された過去を隠蔽すると経歴詐称に当たります。
採用後に前科がバレると、就業規則違反を理由として解雇等の懲戒処分が下されかねないでしょう。
ただ、採用段階で前科の有無を問われなかったときには、自ら積極的に前科を伝える必要はありません。なぜなら、前科は個人のプライバシーに関する事情だからです。
なお、金融機関などのコンプライアンスに厳しい企業では、かなり厳しい身元調査が実施されるため、前科を秘匿してもバレる可能性があるので、現実問題として採用には至りにくいでしょう。
次に、罰金刑に処されて前科がつくと、現在の仕事に悪影響を生じるおそれもあります。
たとえば、公務員が罰金刑に処された場合、罰金刑は欠格事由ではないので当然のように失職するわけではありませんが、懲戒免職・停職・減給・戒告などの懲戒処分を受ける可能性があります。
また、医師・看護師・薬剤師の場合には免許保留・免許取消事由に該当するとして仕事を追われるリスクも否定できません。
さらに、警備員や保育士についても、罰金刑となった原因によっては、就業制限がかけられています。
民間企業であったとしても、場合によっては懲戒処分として何かしらの処分が下されることがあるでしょう。
さらに、罰金刑を処された原因となる犯罪事実次第では、職場に知られることによって社会的信用が失墜し、業務遂行しにくくなるというリスクも生じます(痴漢や万引きなど)。
前科・前歴は一般企業等が簡単に照会できるようなものではありませんが、インターネット記事・興信所による調査などを通じてバレたときには仕事への支障が生じてしまうことも十分に考えられますので、すみやかに記事の削除などの対処法に踏み出しましょう。
(2)結婚への影響
結論として、罰金刑の前科があっても結婚できます。なぜなら、前科があることは婚姻の成立を妨げる事情に挙げられていないからです(民法731条以降参照)。
ただし、罰金刑の前科を隠蔽していたことや罰金刑に処されたことは、民法上の離婚原因として考慮され得る点に注意が必要です(民法第770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に相当する可能性があります。)。つまり、罰金刑の前科があることを隠して結婚しても、婚姻期間中に何かしらの要因でパートナーに前科がバレたら、離婚に至り、また、慰謝料などの金銭負担も発生しかねません。
もちろん、パートナーとの関係性や相手のご家族の考えなど次第ですが、できれば結婚前に罰金刑の前科があることは伝えておいた方がリスクヘッジになるでしょう。
(3)経済生活への影響
罰金刑が科されると相当額の支払義務が発生するので、家計がひっ迫するリスクがあります。特に、有罪になって解雇処分を下されると収入源を奪われるので、罰金刑の金額次第では困窮状態に追い込まれかねません。
なお、罰金刑で前科がついても、クレジットカードや各種ローンの利用状況には影響はありません。なぜなら、金融機関がユーザーの情報を収集する信用情報機関には前科情報は登録されていないからです。
ただし、罰金の支払いによって家計がひっ迫し、その結果、クレジットカードやカードローン等の返済が滞ってブラックリストに登録されると、入会審査・更新審査などに通りにくくなるのが実情です。
(4)海外旅行への影響
罰金刑の前科があると海外旅行の渡航制限に悪影響が生じかねません。
まず、どのような人物を入国させるかは各国の自由なので、犯罪歴次第では入国を拒絶される可能性があります。たとえば、アメリカの入国審査は厳しく、前科があると事前のビザ発行が必要となる場合があります。
次に、前科があると海外旅行をするのに必要なパスポートの発給制限が加えられる可能性もあります(旅券法第13条1項1号・7号)。
(5)再び罪を犯した場合の影響
懲役に処された者がその執行が終わった日などから5年以内にさらに罪を犯した場合、その罪において定められた有期懲役の長期が2倍として扱われて、より厳しい刑罰が科される可能性があります。これを再犯加重と呼びます(刑法第56条、第57条)。
しかし、罰金刑の前科は再犯加重には該当しないので、罰金刑が科されてから5年以内に罪を犯しても再犯加重のルールが適用されることはありません。
ただし、罪の重さは諸般の事情が考慮された量刑判断によって決定されるため、前科・前歴があると、再犯のおそれがある・過去の罰金刑による更生が見込めないなどの理由で、検察官・裁判所によって厳しい処分が下される可能性があることに注意が必要です。
4、罰金刑の前科は消える?
罰金刑で前科がついた状態だと、その後の社会生活や仕事復帰などに不安が残るでしょう。「罰金刑を科された過去を誰にも知らずにいたい」と希望するのは当然です。
ここからは、罰金刑の前科が消えるのか、また、第三者に罰金刑の前科を知られるリスクはあるのかについて解説します。
(1)前科の記録は消えない
罰金刑の前科や警察による捜査履歴である前歴は、警察・検察が保有するデータベース(前科調書)に記録が残ります。
つまり、本人が死亡するまでの間、一度登録された前科の記録は消えないということです。
ただし、捜査機関が保管する前科の記録は、捜査機関外の人間ではアクセス不可能です。前科がある本人にも情報は教えてくれません。
したがって、再度何らかの罪で正式裁判となり、証拠として前科データに基づく前科調書が提出されるなどの特段の事情がない限り、警察・検察が保管する前科データが理由で第三者に前科を知られることはないと考えられます。
また、罰金刑の前科は、本籍地のある市区町村の「犯罪人名簿」に5年間記載されます。
犯罪人名簿に前科が掲載されるのは、前科による欠格事由がある職業資格や選挙権・被選挙権の有無を確認する趣旨に基づきます。
なお、捜査機関が保管する前科記録と同じように、一般の方では市区町村が管理する犯罪人名簿に照会できないので、情報が漏れる心配はないでしょう。
(2)インターネットへの書き込みが残ることもある
罰金刑が科される原因になった事件が報道されたり話題になったりすると、いつまでも氏名・事件の内容・逮捕された事実などがインターネット上に残る危険性があります(いわゆる「デジタルタトゥー」と呼ばれるものです)。
前科や逮捕歴のようなプライバシー性の高い情報が残り続けると社会復帰の妨げになるでしょう。なぜなら、友人や恋人、従業員の氏名でのWEB検索は当たり前のように行われているからです。
したがって、インターネット上に前科等の情報が残っている場合には、以下の方法で情報の削除を試みましょう。
情報発信者やウェブサイトの管理人などに対して、ウェブフォームなどから任意での削除を依頼する
プロバイダ業者への情報開示請求によって情報発信者を特定する
情報発信者に対して法的措置をとる
任意での削除依頼はご本人だけでもできますが、相手方が応じてくれるとは限りません。弁護士経由で削除依頼した方がスムーズなので、デジタルタトゥーでお困りの場合には、弁護士へのご依頼をご検討ください。
配信: LEGAL MALL