5、殺人を犯してしまったときに考えなければならないこと
殺人罪が成立する場合、ここまででご紹介した2つの例外を除いて公訴時効はないことを説明しました。
それでは、殺人を犯してしまったとしたら、どうすればよいのでしょうか。
(1)時効で刑罰を免れることはできない
公訴時効がないということは、当然ながら時効によって起訴や刑罰を免れる可能性はないということです。
逃げ隠れして罪の発覚や逮捕を免れたとしても、一生涯、
「いつか逮捕されるのではないか」
「死刑などの重罰に処せられるのではないか」
といった、恐怖心や不安感を抱えて生きていかなければなりません。
(2)逃亡していると刑罰が重くなることがある
逃亡後に逮捕された場合は、犯行後すぐに逮捕された場合よりも刑罰が重くなる可能性があります。
犯行を隠ぺいするような行為をしていると、さらにその傾向が強まります。
これらの行為をすることは「反省」とは正反対の態度であり、刑事裁判において悪い情状として評価されるからです。
逃亡期間が長くなればなるほど、悪質な態度と評価され、刑罰が重くなる可能性が高まってしまいます。
(3)自首すれば減刑される可能性が高い
一方、自首すれば刑罰が軽くなる可能性が高くなります。
自首した場合には、刑を減軽することができると法律で定められているからです(刑法第42条1項)。
犯人が誰であるかが既に捜査機関に判明している場合には、犯人が警察に出頭しても法律上の「自首」は成立しません。
しかし、この場合でも自ら出頭し、罪を自白することはプラスの情状として評価されますので、刑罰が軽くなる可能性が高まるのです。
6、殺人罪で逮捕された場合の対処法
自首した場合も、捜査機関に見つかった場合でも、殺人罪で逮捕された場合にはできる限り刑罰を軽くしたいと考えることでしょう。
そのためには、以下のような対処が重要となります。
(1)真摯に反省する
罪を犯したことが事実であれば、まずは素直に犯行を認め、真摯に反省することです。
取調官に対し、犯行の動機から犯行に至る経緯、犯行の具体的な内容、犯行後はどのように過ごしていたのかなどを、正直に話しましょう。
そのうえで、
自分のどこか悪かったのか
どうしていればよかったのか
罪を犯してどう思っているか
被害者や遺族に対してどのように思っているか
などを、心を込めて話していくことです。
(2)取り調べで不利な調書にサインしない
取り調べで反省の態度を示すことと、取調官の言いなりになることは全く異なります。
取り調べでは、不利な供述調書には決してサインしないようにしましょう。
いったんサインすると、基本的にはその供述調書の内容のとおりに自分が話したものとして扱われ、後に刑事裁判で供述調書で話したとされる内容を覆すことは非常に困難となるからです。
犯行を自白していても、取調官は犯行の動機や犯行に至る経緯、犯行の態様などについて、実際よりも悪質な内容の供述調書を作成しようとするケースが少なくありません。
反省の態度を示しつつも、事実は事実としてありのままに供述することが大切です。
取調官が作成した供述調書は、必ず手に取って内容を十分に確認しましょう。
内容に納得できない点があれば、納得できるまで訂正を申し出ることです。
もし、取調官が言い分を聞き入れてくれないときは、弁護士に相談のうえ、対応についてアドバイスを受けるべきでしょう。
(3)弁護士を通じて被害者側と示談交渉をする
刑罰を軽くするためには、被害者側(遺族)と示談することが有効です。
しかし、逮捕・勾留されていると自分で示談交渉をすることは事実上不可能です。
遺族は犯人に対して強い処罰感情を持っているのが通常ですので、手紙を送ったとしても交渉に応じてもらえないことも少なくありません。
以上のような場合には、弁護士を通じて示談交渉をすることをおすすめします。
刑事事件の経験が豊富な弁護士に依頼すれば、遺族の感情にも十分に配慮して示談交渉を進めてくれますので、示談成立も期待できます。
ただし、殺人事件で示談を成立させるためには、多額の示談金を要する可能性が高いうえ、いくら示談金を用意しても示談には応じてもらえない可能性も十分にあります。
そのため、殺人罪のケースでは、示談成立に至らないことも多いでしょう。
その場合でも、弁護士を通じて遺族へ真摯な謝罪の意思を伝え、できる限りの示談金を提示することはプラスの情状として評価されます。
(4)身元引受人を立てる
身元引受人を立てることも大切です。身元引受人とは、一般的に犯人が釈放された後の生活を指導・監督し、二度と間違いを起こさないように導く人のことを指します。
殺人事件で実刑判決を受ける見込みが強い場合でも、被疑者・被告人に寄り添ってくれる人を立てれば、その人の存在がプラスの情状として評価され、刑罰を軽くできる可能性があります。
殺人事件でも事案の内容や、上記(1)~(3)の状況次第では、執行猶予付き判決を獲得できる可能性があります。
執行猶予が見込める事案では、身元引受人の存在がとりわけ重要となるのです。
家族や親戚、上司、お世話になっている知人等の中から、できる限り本人に対する指導力が強い人を身元引受人に選びましょう。
配信: LEGAL MALL