若い年代の妊婦さんにも「梅毒感染者」が急増!その理由は?【医師監修】

若い年代の妊婦さんにも「梅毒感染者」が急増!その理由は?【医師監修】

今、梅毒の感染者数が急増しています。10年ほど前までは感染者を見つけるほうが難しいほどでしたが、最近の感染者は若い女性にも多いといわれ、妊婦さんに感染すればおなかの赤ちゃんにも影響が。感染しないために、また感染しても早期発見するためにできることを、産婦人科医の土屋裕子先生に聞きました。

なぜ、「梅毒」は若い世代にも増えているの?

ここ数年、「梅毒が増加している」というニュースをよく見かけます。年代を問わず男性の感染者が多いと聞いていましたが、最近では若い女性にも増えているといいます。それはなぜでしょうか。

――梅毒の感染者が増えていますが、その理由について教えてください。

土屋先生(以下敬称略) これまで梅毒は、風俗産業に従事している方の感染が多かったのですが、最近では風俗産業以外の方の感染も増えていることがわかっています。

デリバリーヘルスのような出張型のヘルス利用が増えたことも理由として考えられていますが、異性間の出会いのツールが多様化したことが、一般の若い世代にも梅毒が増加している理由の1つとして挙げられています。

いわゆる出会い系サイトの利用などがそれに当たります。不特定多数のパートナーがいる方だけではなく、特定のパートナーとの性交渉の中でも広がっているのは、このような出会いのツールの多様化が背景にあることが、論文でも明らかになっています。

出会い系サイトからおつき合いが始まり、結婚、妊娠…そのような流れが若いカップルの中で珍しくなくなってきたことが、若年の妊婦さんの梅毒感染の増加に影響しているのではないかと言われています。

――出会いのツールはこれまでにもあったと思いますが、なぜそれが梅毒の増加につながったのでしょうか。

土屋 コロナ下で風俗店が閉鎖されていた時期に、それ以外のいろいろな出会いのツールを利用する人が増えたせいではと考えられています。
コロナの自粛期間に人との接触が減れば、梅毒などの性感染症は減るだろうと予想されていましたが、そうではありませんでした。実際、自粛生活やマスク、手洗いなどの徹底によってほかの感染症は減少したにもかかわらず、梅毒などの性感染症は同じような減り方をしませんでした。そこで調査したところ、先のような感染の背景があることがわかってきたのです。

――若い世代に増えていることは、産婦人科医として実感されますか。

土屋 実際、以前には見られなかった、20代で特定のパートナーしかいないという方でも感染しています。男性の場合はどの世代にも増加しているため、いちがいに若い世代の人だけとは言いきれませんが、女性の場合、若い世代のセクシャルアクティビティ(性的な活動)がほかの世代と比べると比較的高いので、増加したのだろうと考えられています。

――梅毒を疑って病院に来られる方は、どのような経緯や症状で受診されますか。

土屋 いろいろな段階があります。たとえばたまたま発熱して、内科に行って調べたら梅毒がわかって産婦人科に来る方もいます。
梅毒の症状というと、外陰部にしこりがあって受診する、と思われがちなのですが、実はそのケースはあまりありません。感染した初期の段階では、性器や肛門(こうもん)、口などに小さな発疹(ほっしん)、しこり、くぼみのような潰瘍(かいよう)などができますが、痛みはほとんどありません。しかも、これらの症状は気にしているうちに数週間で消えてしまいます。
それから1カ月ほどすると手のひらや足の裏、全身に発疹が広まってきます。その時点でようやく気づいて受診する人もいます。

妊婦さんが梅毒に感染したらどうなるの?

最近では、妊婦さんの梅毒感染者もみられるようになったと土屋先生は言います。

――妊婦さんで梅毒に感染している方はどのような状況でいらっしゃるのでしょうか。

土屋 妊娠初期に梅毒の検査(梅毒血清反応検査)が義務づけられているので、そこで梅毒と判明する妊婦さんもいます。振り返ってみても、これといった自覚症状がなかったという人もいます。そのようなケースを、潜伏梅毒といいます。

また最近では、梅毒の流行が一般的に知られるようになったため、梅毒かもしれないと疑って受診されるケースもあります。ただその場合は、全身に発疹が出るといった症状から、産婦人科ではなくまず皮膚科を受診されることもあるようです。
皮膚科でも治療できますが、妊娠している場合は治療そのものが赤ちゃんに負担をかけることもありますので入院して抗生剤を投与することもあります。
疑わしい症状があった場合や診断がついた場合は、早めにかかりつけの産科医に相談することをおすすめします。

――妊婦さんが妊娠初期の梅毒の検査で陽性だった場合、どのような治療をされて、どのような経過をたどるのでしょうか。

土屋 妊婦さんであるかどうかに関わらず、梅毒はペニシリン系の抗菌薬を使って治療します。
これまでは内服薬が広く使われてきましたが、最近では注射が主流になっています。注射のほうが素早く効果的に治癒できるためです。内服薬の場合、1カ月、2カ月と飲み続けなくてはならないのですが、薬を投与する刺激でおなかが張って、早産になってしまうなどのリスクは(注射に比べて)低いです。感染して間もない場合で分娩まで十分に治療する時間がとれる妊娠の初期に治療を開始する場合に、内服薬を選択することが多いです。妊娠中期以降に梅毒と診断された妊婦さんは注射を受けることが多いですが、注射の場合は基本的に入院をして、少なくとも24時間は母子の様子を見ます。妊婦さん以外の患者さんの場合は、入院はせず、外来で注射をすることがほとんどです。

――妊娠初期の梅毒の検査で陰性でも、その後、妊娠中に梅毒に感染してしまうこともあるのでしょうか。

土屋 妊娠初期の梅毒の検査で陰性でも、その後の妊娠中に感染する方が5%ほどいます。いろいろな理由が考えられますが、妊娠初期以降に何らかの性行為によって妊婦さんが梅毒に感染してしまうケースもあります。
梅毒が急増しているとはいえ、現状は公費による妊娠中の梅毒検査は、妊娠初期にのみ行われているため、妊娠中期や後期に感染してしまったら、気づかないまま出産に至ることも十分にあり得ます。そうなると、先天梅毒の赤ちゃんが生まれることもあるのです。

――梅毒の感染予防のために気をつけることはありますか。

土屋 性行為では、必ずコンドームを装着してください。これは梅毒に限らず、すべての性感染症にいえることです。とくに妊婦さんの場合、「妊娠の可能性がないから」とコンドームを装着しないパートナーもいますが、コンドームを使用する目的は避妊だけではなく、性感染症予防にもとても重要です。

梅毒以外にも性器ヘルペスや尖形コンジローマなどの性感染症に妊娠初期に感染した場合、分娩までに治すのが基本です。分娩時までに治さないと、産道を介して赤ちゃんに感染する可能性があります。そのようなリスクを避けるためにも、コンドームの装着は徹底しましょう。

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