50人に1人が発症する「強迫性障害」。幼児期から兆候が見られても、気づかれにくく治療が遅れてしまう傾向が【専門医】

50人に1人が発症する「強迫性障害」。幼児期から兆候が見られても、気づかれにくく治療が遅れてしまう傾向が【専門医】

強迫性障害(OCD)とは、不合理な考えやイメージを抱き、そのことに不安を感じ不安を解消するために過剰な行動を繰り返す心の病です。
毎年10月第2週はOCD Awareness Week(強迫症啓発週間)で、強迫性障害を知ってもらうためのさまざまなイベントが開催されます。「たまひよ」で以前紹介した福原野乃花さん(23歳)が、自身の強迫性障害の体験を映画にした『悠優の君へ』の公開もその1つ。10月11日から東京・吉祥寺など全国で順次公開されます。福原さんの主治医である兵庫医科大学精神科神経科学助教 向井馨一郎先生に強迫性障害の特徴や治療について聞きました。

強迫性障害は約50人に1人の割合で発症

強迫性障害は約50人に1人の割合で発症すると言われていて、けして珍しい病気ではありません。

――強迫性障害について教えてください。

向井先生(以下敬称略) 強迫性障害とは、不合理な考えやイメージを抱き、そのことに不安を感じ、不安を解消するために過剰な行動を繰り返すのが特徴です。
原因ははっきりわかっていませんが、50人に1人ぐらいの割合で発症します。
とくに10~20代の若い世代で発症することが多く、男性は18歳前後、女性は22~23歳ごろに発症する人が多いと言われています。福原野乃花さんは小学2年生で過剰な手洗いをするようになったとのことですが、なかには発症年齢が早い患者さんもいます。またうつ病、社交不安症、発達障害などと併発するケースもあります。

――強迫性障害の主な症状を教えてください。

向井 「自分は汚い、もしくは汚されたと思い込み、何度も手を洗う・おふろで体を洗う・アルコール消毒を繰り返す」「何度も火の元や戸締まりを確認する」「自分の不注意で、まわりの人に危害を加えないかと不安になる」などです。独り言のように数を数えたり、不安を打ち消すためにおまじないを繰り返すという症状もあります。

また強迫性障害の問題点は、症状と正常な行動の境界が曖昧なことです。たとえば外出前に火の元を何回か確認するという人は多いと思います。それが正常な範囲なのか症状なのか見極めが難しく、受診が遅れやすい傾向があります。海外の研究では発症から適切な診断を受け、治療が開始されるまで7~8年かかるという報告もあります。これはうつ病などの精神疾患と比べると長いです。この間に症状は少しずつ進行し、重症化するケースもあります。

子どもに気になる様子があるときは、行動を否定しない

強迫性障害は10~20代に発症することが多いのですが、なかには幼児期から兆候が見られる子もいます。

――映画『悠優の君へ』の脚本・監督を務めた福原野乃花さんは、幼児期から不安になることが多かったそうですが、幼児期から兆候があるのはまれなのでしょうか。

向井 幼児期に就寝時や食事のときに子どもなりのルーティンがあったり、ブツブツ独り言でおまじないを唱えるなどの強迫的現象が見られるのは珍しいことではなく、強迫性障害の症状とは限りません。
しかしこれらの行動が続き、生活上困る場面が出てくるようになると、強迫性障害に移行することもあるので、ママ・パパは注意して子どもの様子を見続けてほしいと思います。

――気になる様子があるときは、どのように子どもにかかわるといいのでしょうか。

向井 「〇〇しちゃダメだよ!」と否定するのではなく、「〇〇したほうがいいよ!」と伝えてください。たとえば「もう手を洗うのはやめなさい!」ではなく、「もうきれいになったよ。手をふいたほうがいいよ」と言い換えてあげましょう。責めるような口調や過剰に感情的に伝えることは控え、優しく冷静に伝えましょう。

――子どもが強迫性障害になった場合のリスクを教えてください。

向井 子どもや学生の場合は、人生のいろいろな経験を積む時期に、症状に悩まされて人格形成などに重大な影響を及ぼします。重症化すると、外に出られなくなる子もいます。実際に、未成年の患児さんを診療していると、単位や出席日数がたりなくなり、進路などに影響が出る子もいます。
このような事態を防ぐためにも、ママ・パパには子どもの異変に早期に気づいて受診につなげてほしいと思います。

――医師に相談する場合は、何科を受診すればいいのでしょうか。

向井 子どもの場合は児童精神科がいいのですが、近くに児童精神科がない場合は、精神科でも構いません。また小児科でも、臨床心理士がいて相談できるクリニックもあります。受診すべきかどうか悩んだときは、保健所に問い合わせてもいいでしょう。
治療が必要な場合は、強迫性障害はセロトニン(脳内物質)を増やし気分を安定させる薬物療法と、認知行動療法が治療の2本柱になります。ただし子どもや妊婦は、薬物療法は副作用が心配されます。
また薬物療法だけでは、寛解状態に達したり、根治するのが難しい場合があります。
そのため認知行動療法が推奨されるのですが、強迫性障害の認知行動療法が保険適用となったのは2016年からです。専門知識が必要な治療なので、取り入れている医療機関が限られているという課題があります。

――認知行動療法とは、どのような治療でしょうか。

向井 強迫性障害は、過剰な手洗いや長時間の入浴、確認作業などによって日常生活が困難になりやすいのが特徴です。患者さんは、どうにかして症状を我慢しようとするのですが、なかなか我慢できません。
認知行動療法は、精神療法の1つで我慢する順番や我慢できるようになる方法を学ぶ治療です。1つ1つの症状を克服しながら、認知行動療法を続けることによって、症状の軽減が期待できます。

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