「人食いバクテリア」とも呼ばれる劇症型溶連菌。感染すると影響が出やすい妊娠期は特に注意して【医師監修】

「人食いバクテリア」とも呼ばれる劇症型溶連菌。感染すると影響が出やすい妊娠期は特に注意して【医師監修】

ニュースでときどき見る「劇症型溶連菌」。名前を見るだけでも怖そうですが、どんなものか知っていますか?
妊婦さんが感染したらどうすればいいのか、感染しないためにできることは?産婦人科医の土屋裕子先生に聞きました。

劇症型溶連菌とはどんなもの?

突発的に発症し、致死率も高いといわれる「劇症型溶連菌」。いったい、どんな感染症なのでしょうか。

――劇症型溶連菌は「人食いバクテリア」とも呼ばれていますが、どのようなものなのでしょうか。

土屋先生(以下敬称略) 正式には、劇症型溶血性レンサ球菌感染症といいますが、これはいわゆるA群溶血性レンサ球菌感染症(以下、A群溶連菌)の1種です。そもそもA群溶連菌は、その多くが子どもが感染する感染症の1つで、主な症状は咽頭炎です。ですから通常は風邪のような症状が見られるものの、1週間程度で治ってしまうことが多いものです。

その中で、ただの風邪だと思っていたら重症化し、腎炎などの合併症を招くことがあります。とくに妊婦さんの場合は、免疫力が通常より落ちているため、影響が出やすい面もあります。でもそれは、どの感染症にもいえることです。

――それは劇症型溶連菌とは違うものですか。

土屋 人食いバクテリアと呼ばれているものは、あくまでもA群溶連菌の中の一部の劇症化するタイプの菌です。分娩に近い時期に感染すると、急速に進行し、重症化して母子ともに死亡につながることもあります。ただ、人食いバクテリアと呼ばれているものに限らず、治療が間に合わなかったなどの理由から、重症化や死亡につながることもないわけではありません。

産婦人科の症例報告の中で重症例として、お産前後に感染したケースを挙げましょう。
まず、喉の痛みなどの上気道(じょうきどう)感染から始まり、その後、発熱、倦怠(けんたい)感、筋肉痛などインフルエンザ感染に似たような症状が出ます。分娩が近いと、血液を介して菌が子宮に到達して子宮内感染を起こし、胎児死亡につながったり、母体が敗血症を起こしたりします。

ただし、ここまで重症化することはまれだといわれています。怖がる必要はあるのですが、早期に診断がつき的確な診療が施されれば、救われる可能性は高いと私たち産婦人科医は考えています。

A群溶連菌が増えている?妊婦さんへの注意喚起とは?

最近、毒素が強いタイプのA群溶連菌が流行しているという報告もあります。実際はどうなのでしょうか。

――A群溶連菌に感染する妊婦さんは増えているのでしょうか。

土屋 世界的にA群溶連菌が流行しているのは事実です。2011年以降、欧州、北米、豪州などで毒素が強く感染力も強いA群溶連菌が増え始めました。
そして2023年の夏、日本で初めて同様の株が確認されました。妊婦さんに限りませんが、2024年に入ってから、とくに感染者が増加しています。そこで産婦人科感染症学会では、会員の医師に向けて注意喚起をしたのです。

多くの方は風邪のような症状で治まりますが、妊婦さんが風邪のような症状を訴えて病院に行ってA群溶連菌が見つかった場合は、早めに抗生剤での治療を開始しましょう、といわれています。

――A群溶連菌かどうか確かめるには、どのような検査をするのですか。

土屋 “咽頭拭い液”といって、のどに綿棒をこすりつけて調べる方法や、血液中の抗体を調べる抗体検査などがあります。インフルエンザの検査は鼻の奥に綿棒を入れて調べることが多いと思いますが、A群溶連菌は上気道から感染するため、喉を調べるのです。

――上のお子さんがいる場合は、お子さんから感染することもありますか。

土屋 当然、あります。妊婦さんで、上のお子さんが感染していて、ご自身にも何らかの喉の症状が見られたら、早めに産婦人科を受診しましょう。A群溶連菌は飛沫(ひまつ)感染のほか接触感染、経口感染もします。家族がかかれば非常に感染しやすくなります。

受診される場合、産婦人科以外の科では、妊婦さんがA群溶連菌に感染した場合のリスクが周知されていない可能性もあります。まずはかかりつけの産婦人科を受診したほうがいいでしょう。

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