「従業員が客からストーカー被害に遭っています。どのように対処すればよいでしょうか」
カスハラやストーカーが社会問題となる中、弁護士ドットコムにもこんな相談が寄せられました。
相談者によれば、ある男性客が女性従業員にしつこくつきまとっているとのこと。入店を拒否したところ、店に電話してきて、女性従業員に「俺のことをどう思う?」と聞いたり、セクハラや脅迫のような言葉を投げかけたりしているそうです。電話がひんぱんにかかってくるため、他の予約の電話に出ることもできず、困っているとのことです。
また、その女性従業員は特別なスキルを持っているため、退職されてしまうと、店の売上にも影響するといいます。対策のため、女性従業員に一時的に店を休んでもらっていますが、長期的な対応とはなりえません。
こうした従業員にストーキングする客に対し、店側は何か法的な措置をとることができるのでしょうか。正込健一朗弁護士に聞きました。
●ストーカー規制法違反になりうる
──本件のような場合、ストーカー規制法の対象になりますか。
ストーカー規制法違反では、男性客の行為はその態様から「つきまとい等」(同法2条1項1号、5号および8号)には該当しそうです。
これが繰り返されているということですので、男性客の行為は禁止されている「ストーカー行為」(同条4項)に当たります(同法3条)。
ストーカー行為が更に反復して行われるおそれが認められる場合には、警察による「警告」(同法4条1項)、公安委員会による「禁止命令」(同法5条1項1号)を求めることができます。
ストーカー行為をした場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(同法18条)、禁止命令に違反した場合は「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(同法19条1項)の罰則が科されることになります。
●大切なのは「従業員を守る姿勢を毅然と示すこと」
──客のストーカー行為に対して、店側としてどのような対応が考えられますか。
ストーカー規制法の保護対象は「ストーカー被害者=女性従業員」なので、店としては女性従業員に対してこれらの情報を提供して警察への相談・被害届のサポートをすることになります。
報復の恐れなどから本人が警察の介入を望まない場合、店側だけでは動けないことになります。ただし、頻回な電話によって店の業務に支障が生じている点で、店を被害者とする威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性はあります。
民事的な対応としては、民事保全法に基づいて架電禁止・訪問禁止の仮処分を申し立てることが考えられます。また、保護範囲をどう設定するかという問題はありますが、店側に損害が生じているのであれば、不法行為に基づく損害賠償請求もあり得ます。
ただし、いずれの場合も最初から申立てや訴訟提起というよりは、まずは書面による警告から始めるのが無難であるように思われます。民事的な対応をする場合は、相手方の特定をどうするかという問題は残ります。
大切なのは使用者として従業員を守る姿勢を毅然と示すことです。警察への相談も含めて、可能な限り従業員に寄り添った対応が求められます。また、予防的には、セキュリティ体制の強化や、対応マニュアルの整備等も検討すべきと考えます。
【取材協力弁護士】
正込 健一朗(しょうごもり・けんいちろう)弁護士
弁護士・社会保険労務士として、主に使用者側の労務問題に取り組んでいる。紛争案件だけでなく、セミナー・研修や社内規定整備・制度構築さらには企業文化醸成による予防法務にも力を入れている。経営法曹会議会員。
事務所名:正込法律事務所
事務所URL:https://shogomori.com/
配信: 弁護士ドットコム