「人生のピークは遅いほうがいい」が家訓。ゆっくり育てば楽しみが先に残る【ヨシタケシンスケインタビュー】

「人生のピークは遅いほうがいい」が家訓。ゆっくり育てば楽しみが先に残る【ヨシタケシンスケインタビュー】

人より成長がゆっくりなのは、お楽しみが先に残っているということ

――子育てで大切にしていたことや、ヨシタケ家の教育方針があれば教えてください。

ヨシタケ 僕と妻の性格が逆なので、父親と母親で怒るポイントが違ったのはよかったかな、と。両親にそろって怒られたら子どもの逃げ場がなくなっちゃいますよね。家庭内で父親と母親で全然対応や考えが違うと、子どもの選択肢も1つではなくなるから。

――ヨシタケさんの意見に対して、お子さんから「お母さんはこう言ってたよ」と言われることもありましたか?

ヨシタケ 子どもに「今日はこのズボンをはきな~」と着替えを用意したら、「お母さんがそういったの?」って確認されましたね(笑)。お母さんの決定かどうか確認してこい、と戻されるっていう(笑)。そういう意味ではわが家の教育方針は「お母さんを怒らせない」かもしれません。自分たちにいちばん影響力のある人の機嫌を損ねることが、どれだけ自分の利益を損なうかを学ぶことは、人間として大事なことなんだろうなと。

――(スタッフ一同大笑い)

ヨシタケ ・・・というのは冗談にしても、妻との間でよく話していたヨシタケ家の家訓は「人生のピークは遅いほうがいい」ということです。僕自身が40歳で絵本作家としてデビューして、少しずつステップアップして、今が一番楽しいな、といつでも思って生きてきました。そういう人生のほうが、満足してる時間は長い気がします。

小学生のときめちゃくちゃ勉強ができた人や、中学生のころめちゃくちゃモテた人のように、人生のピークが早いと、大人になってから「あのころはよかった」と思ってしまうのかな、と。それもすごい偏見かもしれないですけど。

だから、たとえば同じ月齢の子と比べて言葉が遅いとか、育ちがゆっくりだとか、できないことがあったとしても、それはお楽しみがまだ先に残っているということ。親になると、人より先んじて頑張れ、と言いたくなる気持ちもわかるけれど、人より早いことが必ずしも幸せに直結するものではないよね、という価値観を妻と共有していました。ほかには、なるべく自分の失敗談をたくさん教えたいということも教育方針の1つだったと思います。

――失敗談を教えたい、とはどういうことでしょう?

ヨシタケ 小学生のときにズボンのおしりがやぶけてさあ、とか。あんな失敗をして、笑いものになったけど、今はべつに大丈夫だよ、と。失敗したってなんとかなるし、どんなことでもネタになる、と教えることは、すごく大事な気がします。だから君も完璧じゃなくていいし、失敗していいんだよ、と失敗することのハードルを下げておくのもいいと思います。自慢話より失敗談をたくさん伝えたいですね。

将来のことなんてわからないと伝えたい

――息子さんたちはお父さんの仕事についてどんな印象を持っていますか?

ヨシタケ 僕もちゃんと聞く勇気もないし、息子たちも本当のところをいうわけにもいかないと思っていそうです。昨日(取材日前日)、新刊の見本誌ができたから息子に見せましたけど、棒読みで「面白かったよ」って気をつかってくれました(笑)。それはうれしいですけど。小さいころは、僕の本を開いて楽しいところはケラケラ笑うし、そうじゃないところは飛ばしながら読んでいて素直な反応がわかりました。

でも今はそういう反応は見られないし、父親が書いたものとなると、やっぱり一読者とは違うんですよね。だから息子たちにとっては「絵本作家 ヨシタケシンスケ」はいないんですよ。僕は、息子たちにとって大事な情報はほかの人の本から学んでほしいし、息子たち以外の人に届けば十分だと思っています。

――息子さんたちから将来のことを相談されたりすることはありますか?

ヨシタケ それこそ長男は大学受験生です。中高生になると、自分の将来の夢の提出を求められますよね。僕は中高生のころ、それがとにかくつらかったんです。だから息子たちにも、そんなもんわかんないよねっていうことを繰り返し言いたいなと思っています。僕もそう言ってほしかったから。

人は、自分の成功体験しか他人におすすめできないですよね。たとえば親が「自分はこうやってうまくいったからきみもできるはずだ」とすすめたとしても、あくまでもそれはその人がうまくいっただけの話。子どもが同じ方法でうまくいくかどうかは別問題です。

だから大人の話は、話半分に聞いてほしいです。僕はいろんなことから逃げてきて今があるので「逃げたほうがいいよ」としか言えないし、逃げずに立ち向かって自分で壁を破ってきた人は「逃げちゃだめだ、戦え」と言うだろうし。両方聞いた上で、自分はどっちがいいか、それもやってみないとわかんないですよね。選択肢がたくさんあることを知って、自分で選んでいいんだよ、と言ってあげたいと思います。

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