祖母が死後の財産に関して話した様子を記録した動画は遺言として有効なのでしょうか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の祖母が入院していた際、相談者、母(祖母の実娘)、妹の3人が24時間体制で世話していたそうです。相談者が祖母の様子を家族に伝えるための記録として動画撮影していた際、祖母が突然「財産はあんたに半分あげる。誰にも言ってはいけない」と話しました。
その後祖母は亡くなり、相続財産には持ち家がありました。相談者自身は相続人ではありませんが、祖母が動画に残した言葉が遺言として有効かどうかが気になっているようです。
本人が遺した言葉ならできるだけ尊重されるべきでしょうが、相続財産の処分に関して話す様子を記録した動画も遺言として法的に有効なのでしょうか。森本明宏弁護士に聞きました。
●動画が「遺言」として扱われる可能性は「ゼロ」
──相続財産の処分に関して話す様子を記録した動画は、法的に「遺言」として扱われることはあるのでしょうか。
「遺言」として多く利用されるものは、(1)公正証書遺言と(2)自筆証書遺言です。ほかにも、(3)秘密証書遺言という種類のものもありますが、利用頻度としては相当低いです(今回は触れません)。
遺言は、どの種類についても、法律によって厳格な作成方式が定められています。そのため、その方式に従って作成されていない遺言は、すべて無効となります。
被相続人が相続財産の処分に関して話す様子を動画で記録しても、法律で求められた方式に従っていませんので、有効な「遺言」として扱われることは一切ありません。
●公証人に病室へ出張してもらう方法もある
──遺言として認められるためには、どのような要件を満たす必要がありますか。
まず、(1)公正証書遺言は、遺言者本人が、公証人と証人2名の前で遺言の内容を口頭で告げ、公証人が、その内容が遺言者の真意であることを確認したうえ、これを文章にまとめて、遺言公正証書として作成します。
作成の過程に法律の専門家である公証人が関与しますので、方式の不備で遺言が無効になるおそれはありません。
次に、(2)自筆証書遺言は、遺言者が、自ら遺言の内容の全文を紙に手書きし、日付と氏名も自ら書いて、押印をする方式で作成します。
なお、民法の改正に伴い、遺言書にパソコン等で作成した財産目録を添付したり、預金通帳のコピーや不動産登記事項証明書等を財産目録として添付したりすることが認められるようになりました(民法968条2項)。
ただし、この場合にも、財産目録以外の遺言の全文は、やはり遺言者自身が手書きをしなければなりません。したがって、財産目録以外の部分について、一部をパソコンで作成したり、第三者に代筆してもらったりした場合には、方式の不備により、遺言が無効となってしまいます。
──今回のケースのような状況で、法的に有効な遺言を残そうと思ったらどう対応すればいいでしょうか。
(1)公正証書遺言であれば、作成に公証人の関与が必要となりますし、(2)自筆証書遺言であれば、遺言の内容の全文を遺言者が自ら手書きしなければなりませんので、病気等で手が不自由な場合にはその場で対応不可能な場合も出てくるでしょう。
このような場合には、方式の不備により無効となるおそれがない(1)公正証書遺言を選択し、かつ、遺言者が高齢もしくは病気のために、公証役場に出向くことが困難な場合には、逆に公証人に遺言者の自宅や介護施設、病院等に出張をしてもらって、作成するという方法を取られてはいかがでしょうか。
【取材協力弁護士】
森本 明宏(もりもと・あきひろ)弁護士
愛媛弁護士会所属(2002年弁護士登録)。2010~2011年度、愛媛弁護士会副会長。2020年度、愛媛弁護士会会長。日本スポーツ法学会会員。
事務所名:四季法律事務所
事務所URL:http://www.shiki-law.com/
配信: 弁護士ドットコム