夫から、ことあるごとに「出ていけ」「もう離婚だ」という脅しを受け、つらい思いをしていますーー。
そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者の女性によると、夫の実家で二世帯暮らしをしているといいます。女性がのんびりしていると、掃除などで難癖をつけて、少しでも反論すると「なら、出ていく⁉️」「もう離婚だ」と気軽に言ってくるとのことです。
女性は働いてはいるものの、年収が低く、簡単に家をでることができないため、夫のいうことを聞かざるを得ない状況にあり、夫はそうした立場を見越して発言していると考えているそうです。
このような夫の言動に、何か法的な問題があるのでしょうか。DVやモラハラの問題に詳しい秦真太郎弁護士に聞きました。
●夫の脅し文句は「モラハラ」にあたる
——女性は夫から「出ていけ」と言われたら、出ていく義務はあるのでしょうか。
夫婦はお互いに同居義務と協力義務を負っています(法律上の根拠は、民法752条に規定があります)。
そのため、この同居・協力義務に反して、夫はあなたに出ていくように命じることはできませんし、あなたもこれに従う義務はありません。
——女性が出ていけないことを分かっていて、「出ていけ」「離婚だ」という発言を繰り返していることに、問題はないのでしょうか。
「モラルハラスメント」(モラハラ)という言葉を聞いたことはないでしょうか?
「モラハラ」は法律上明確に規定されている概念ではありませんが、一般的には「言葉、態度、文書などによって継続的に相手の人格や尊厳を傷つける精神的な虐待行為」などと言われます。
あなたの経済状況を知りながら、脅しのように「出て行け」「離婚だ」という発言を繰り返すことは正にこの「モラハラ」に該当し、不法行為に該当します。
なお、「不法行為」という言葉は、一般的に、相手に慰謝料などの損害賠償請求をする際に用いられる言葉です。
あなたが受けた精神的苦痛に対して慰謝料を請求できるかどうかは、上記のようなモラハラ発言の態様(例えば大声であなたの耳の間近で言ってくるのと、かなり離れたところで独り言のようにつぶやいているのとでは悪質性に差があります)、頻度、経緯、その時の状況、あなたのご体調の悪化の程度などを総合して判断されます。
●もしモラハラをされたら何をすべきか
——夫のモラハラ発言は治らないのでしょうか。
私がモラハラ被害を受けている方のお話を聞いていると、「夫のモラハラ発言は治らないのでしょうか?」という質問を受けることが多いです。
結論から言いますと、残念ながら、モラハラ発言は治らないことの方が圧倒的に多いです。
モラハラ夫は、夫婦が対等ではなく、夫が上、妻が下という考え方が染みついている人が多く、このような基本発想があるので、モラハラ発言が治るケースは少ないのです。
——もしも夫からモラハラされた合、どのように対応すればよいのでしょうか。
大きく二つあります。一つ目が夫側との話し合い、二つ目が証拠の準備になります。
まず、夫側との話し合いですが、夫婦だけで話し合っていても、あなたの希望が叶う可能性は低いと思いますので、あなたの両親など信頼できる方を介して話をしたり、信頼できる方と一緒に話をするといった方法が考えられます。
前述のように、モラハラ発言は治らない可能性の方が高いのですが、稀に改善するケースもありますので、極力話し合いはした方が良いと思います。
次に証拠の準備です。
モラハラ夫は、自身の発言を後から否定してくる人が非常に多いので、発言を録音しておくとか、夫からのLINEやメールの中にモラハラ発言があった場合には、そのスクショを取っておくなどすると安心です。
「今すぐ離婚したいわけではないから、録音まではちょっと…」とお感じになる方もいますが、「今後何かあったときのことを考えると、証拠を準備しておくと、今後の保険(安心材料)になりますよ」とアドバイスさせて頂くことが多いです。
【取材協力弁護士】
秦 真太郎(はた・しんたろう)弁護士
東京弁護士会所属。共著に「離婚事件処理マニュアル」(新日本法規)、「離婚事件の手続きと書式」(新日本法規)など。モラハラ・DVを中心に離婚問題に注力している。モラハラ・DV特設ページURL(http://www.hata-lawyer.jp/morahara_dv-sufferer/)
事務所名:雨宮眞也法律事務所
配信: 弁護士ドットコム