異例のヒットで『カメ止め』の再来映画『侍タイムスリッパー』。宇垣美里、思わず涙「好きにならざるを得ないじゃないか!」

異例のヒットで『カメ止め』の再来映画『侍タイムスリッパー』。宇垣美里、思わず涙「好きにならざるを得ないじゃないか!」

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。


 そんな宇垣さんが映画『侍タイムスリッパー』についての思いを綴ります。


●作品あらすじ:幕末の京都から現代日本へタイムスリップしてきた侍が、時代劇撮影所で「斬られ役」として奮闘しますが…。

8月末の公開時初日には、東京都内たった一つの映画館でのみの上映だった自主制作映画でしたが、SNSの口コミで人気に火がつき、10月半ば現在では全国172館で拡大上映。同じく自主制作から大ヒットした『カメラを止めるな!』の再来といわれる本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

素朴でまっすぐ。しかも愛嬌たっぷり。好きにならざるを得ないじゃないか!


 一分一秒でも長く、この人の人生を見守りたいと画面にかじりつく。日常のふとした瞬間に「あの人ならどうするだろう」と思いを馳せる。そんな風に大切に思える登場人物に出会える幸運をなんと呼ぼう。

 高坂新左衛門は私にとって、いや多くの人にとって魅力的で応援せずにはいられない唯一無二の存在だ。

 会津藩士・高坂新左衛門は藩命を受け、長州藩士を暗殺すべく刀を交えるが、落雷が直撃する。意識が戻ると、そこは現代の京都にある時代劇撮影所。なんと140年後の未来へとタイムスリップしてしまっていたのだった。

 高坂は己の運命を受け入れ、自分の特技と出自を武器に時代劇の斬られ役として生きていくことを決意する。


 山口馬木也演じる高坂の剣さばきや、ふとした動作ひとつひとつが持つ説得力といったら。生真面目で誠実な佇(たたず)まいながら、あくまで現代の私たちとは異なる倫理観を有した魂の持ちようはまさに侍そのもの。

 そんな彼が現代の街を彷徨(さまよ)い失ったものを実感する様子や、八つ当たりするでもなく静かに現状を受け入れ、なんとか馴染もうと奮闘する姿がただただ健気。握り飯の美味しさに目を丸くし、ショートケーキから豊かな時代の到来を実感し祝福する描写には思わず涙してしまった。

 堅実で、一生懸命で、素朴でまっすぐ。しかも愛嬌たっぷり。そんなの、好きにならざるを得ないじゃないか!

時代劇への愛と人生への希望に「映画っていいなあ」


 世話になる寺の住職夫婦とのやり取りや殺陣の師範(しはん)との稽古でつい勝ってしまう様子などは微笑ましく、ベタで優しい笑いに溢れている。その一方で見事な体幹から繰り出される殺陣の迫力に圧倒され、台本のト書きから会津藩の辿(たど)った運命を知ってしまうシーンの悲痛さには言葉を失った。

 ラストの決闘シーンは息を吸うのもはばかれるようなたっぷりとした沈黙の緊張感と、まさに命の取り合いそのもののような鬼気迫る殺気に、手に汗握り鳥肌がたった。

 今は亡き侍たちと陰りゆく時代劇の未来を重ねながらも、余すことなく詰め込まれた時代劇への愛と人生への希望に、清々しさと共にしみじみ映画っていいなあと胸がいっぱいになった。

 細かい殺陣や伏線など、何度みても発見があり、おかわりが楽しい一作。ああ、また彼らに会いたい。

『侍タイムスリッパー』

監督・脚本・撮影・編集:安田淳一 殺陣:清家一斗 出演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの 撮影協力:東映京都撮影所 ©2024 未来映画社 配給:ギャガ 未来映画社 絶賛公開中

<文/宇垣美里>









【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。

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