賃貸物件の更新のタイミングで家賃の値上げを言い渡されましたが、応じないといけないのでしょうか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、賃貸物件に10年弱住んでおり、更新のタイミングで不動産会社から3000円の値上げを言い渡されたそうです。値上げの理由は「地価の上昇」と伝えられたそうですが、じわりと家計を圧迫する不安に頭を抱えています。
交渉の余地はないのかと悩む相談者ですが、住み続けようと思ったら、家賃の値上げに応じるほかないのでしょうか。古賀麻里子弁護士に聞きました。
●地価の上昇は「家賃値上げ理由になる」
──地価の上昇を理由に、家賃を値上げすることは妥当なのでしょうか。
借地借家法32条1項は、建物の賃料が次の(1)〜(3)の事情がある場合には、契約の条件にかかわらず、当事者が将来の賃料増減を請求することができる旨定めています。
(1)土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
(2)土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動
(3)近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、
地価の上昇は条文が規定する場合に当たりますので、現実に上昇している場合、家賃値上げの理由となりえます。
──相談者が家賃の値上げに応じずに住み続けることは可能なのでしょうか。
住み続けること自体はできます。借地借家法には、合意による更新をしない場合も従前と同じ条件で現在の契約が更新されるという「法定更新制度」があり、オーナー側は、賃借人が値上げに応じなくても、賃貸借契約を満了時に終了させたり一方的に解除するようなことはできません。
交渉の余地もあります。特別な資料や根拠がなくても、個人的な理由、たとえば物価が上がっているが収入が増えず余裕がなく少額しか応じられないといったものでも、交渉材料とならないわけではありません。
ただ、交渉が折り合わない場合、オーナー側から正式に賃料増額請求を受ける可能性があります。
●長く住むつもりなら「値上げに応じるのもアリ」!?
──賃料増額請求を受けたら、その後はその額を支払うしかないのでしょうか。
賃料増減額請求は、一方的な意思表示で適正賃料額への変更の効力が発生する形成権ですが、当事者間に争いがある場合、いくらが適正賃料額かは調停や裁判で決まります。
当事者間で協議が整わない場合、増額請求を受けても増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことで足り、増額請求を受けてもこれまでの賃料額を支払えば問題ありません。
ただ、後々調停や裁判の場で賃料増額が認められた場合、効果は増額請求を受けた時点に遡り、不足額に年一割の割合による利息を付して支払う必要が出てくる点は意識しておく必要があります。
──借りている側として留意しておくべき点はありますか。
月額賃料が数万円や十数万円の居住物件で賃料増額が争われ裁判所まで持ち込まれる事案は正直多くはないという印象ですが、ここ数年の経済状況をみると、都心を中心に、冒頭で述べた賃料の増額を認める条件が整いやすい状況となっています。今後は裁判所に持ち込まれるケースも増えるのではないかと思われます。
また、賃料が不相当かどうかは、基本的に直近の賃料変動時点と増減額請求があった時点とを比較して判断されます。
そのため、長く住むことを考えているなら、オーナーから賃料増額の要望を受けた場合、少しの値上げで済むのであれば応じることを検討してもよいでしょう。増額により賃料を変動させたという実績を残すことで、近い将来に大幅な値上げを求められるリスクの回避にもなりえます。
【取材協力弁護士】
古賀 麻里子(こが・まりこ)弁護士
東京弁護士会所属。借地借家トラブル(事業者の立ち退き問題、土地建物の明渡問題、テナント賃料の増減額請求、サブリース解約交渉等の不動産問題)、各種損害賠償問題を多く扱う。
事務所名:古賀法律事務所
事務所URL:https://kogalaw.net
配信: 弁護士ドットコム