●国の責任、検事総長の責任はどうなるのか
今回の畝本談話は、畝本検事総長という公務員が、袴田さんに対して名誉毀損という不法行為を働いたものであり、国には、国家賠償法に基づいて袴田さんに対して損害賠償責任があることになるでしょう。
では、畝本検事総長個人は責任を負わなくてよいのか。
判例によると、公務員の職務上の行為については、国が責任を負うのであって、公務員個人は責任を負わないとされています。今回の畝本検事総長による名誉毀損行為も、畝本氏個人は責任を負わず、国家賠償法に基づいて国が責任を負う、ということになると思われます。
ただし、行為の違法性が重大で、かつ行為者がその違法性を認識している場合には公務員個人も責任を負うべきであるとする下級審裁判例や学説もあります。
このような見解に立つならば、今回のケースの場合、まず、4人もの人を殺した犯人だという名誉毀損行為の違法性が重大であることはいうまでもありません。
また、畝本氏は、今回の事件について控訴を断念した検察庁のトップなのであり、控訴をしても判決をひっくり返す見込みが立たないことを重々知ったうえでの発言なのですから、自分の行為の違法性を認識しているということもできます。
そうすると、一定の場合に公務員の個人責任を認める立場に立つならば、畝本検事総長個人の不法行為責任も認められると解する余地は十分にあるといえます。
【取材協力弁護士】
佃 克彦(つくだ・かつひこ)弁護士
1964年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業。1993年弁護士登録(東京弁護士会) 著書に「名誉毀損の法律実務〔第3版〕」、「プライバシー権・肖像権の法律実務〔第3版〕」。日本弁護士連合会人権擁護委員会副委員長、東京弁護士会綱紀委員会委員長、最高裁判所司法研修所教官を歴任。
事務所名:佃法律事務所
事務所URL:https://tsukuda-law.jp/
配信: 弁護士ドットコム