会社から退職前に顧客とのLINEでのやり取りを全部見せないと年次有給休暇(有休)を取り消すといわれた──。このような相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の女性は、退職までの期間で有給休暇を消化しようと会社に申請し、いったんは受理されました。ところがその後、会社から顧客とのLINEのやりとりを「会社で管理する」と言われ、提出しない場合は有休を取り消すように言われたそうです。
会社側が過去の退職者に対して同様の対応を求めたというケースを見聞きしたことがないため、女性は「枕営業の有無を確認したいのでは」と考えています。
とんだ的外れの疑惑を持たれた上に、顧客とのLINEでのやり取りもほとんどが日常会話であるため、会社側に見せることに抵抗があるようです。応じないと有休を取り消されてもしょうがないのでしょうか。波多野進弁護士に聞きました。
●通常は「開示義務まではない」
──会社が、顧客とのLINEでのやり取りを提出するよう求めることは問題ないのでしょうか。
たとえば、会社のスマホが貸与され、会社の業務方針として会社の管理しているLINEアカウント(労働者個人のアカウントではなく)で、営業手段としてLINEを使うことになっているような場合なら、会社側がLINEの内容の開示を求めることはできると思われます。
そうではなく、労働者個人のスマホで、労働者個人のLINEアカウントを使って労働者の判断に基づき、顧客との連絡の一手段として使っていたような場合には、開示の義務まではないと思います。
個人のLINEのやり取りはどこまでが業務か私的な領域かあいまいなケースが少なくありません。顧客側も通常、LINEでのやり取りを相手方の会社に見られることまでは想定していないのではないでしょうか。
──「会社の求めに応じなかったら有休取消し」は問題ないのでしょうか。
退職日が決まっていて有休を取得できる時期が限られている場合は、有休の時期を別の時期に変更できる権利「時季変更権」を行使できないという解釈が一般的ですので、退職前という今回のケースでも有休を取り消すことはできないといえます。
また、時季変更権の問題以前に、仮に退職日が迫っている状況でなくとも、会社が本来認められない指示に応じないことを理由に有休を取り消すことは認められないでしょう。
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com
配信: 弁護士ドットコム