“負け顔”と“転び方”がピカイチな29歳女優。復讐ドラマなのに笑わせる、あざとさゼロの演技

“負け顔”と“転び方”がピカイチな29歳女優。復讐ドラマなのに笑わせる、あざとさゼロの演技

 インパクトのあるタイトルのアニメや漫画が多い昨今、10月から放送が始まったドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系、火曜よる10時~)もなかなかなタイトルだ。


 結婚式当日に婚約者・寺山衛(宮崎秋人)に逃げられた主人公・佐藤ほこ美(奈緒)。失意のどん底にいる時、金髪の謎のイケメン・葛谷海里(玉森裕太)に出会い、そのことをキッカケに自分を変えるためにボクシングを始める、というスポコンあり恋愛ありのラブコメ作品になっている本作。暴力的なタイトルではあるものの、安心して楽しく見られるドラマになっているが、その要因として奈緒という役者の上手さが挙げられる。

可哀想だけど笑えてしまう“負け顔”

 本作は「ほこ美が心を弄ばれた相手・海里を殴る」ということが軸になっており、いわゆる“復讐モノ”だ。基本的に復讐モノは作中の空気感はダークになるが、本作はあくまでラブコメである。画面は明るくサスペンス要素はほぼほぼ見られない。とはいえ、ほこ美の境遇を想像すればついつい同情したくなる。加えて、クズムーブを見せた衛や海里に対する憎しみが生まれ、ラブコメとして素直に楽しく視聴できなくなりかねない。

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 それでも従来の復讐モノのように「クズを許すな!」「地獄に落としてしまえ!」とは思わせず、ラブコメとして成立させらせている。それは奈緒という役者の魅力があってこそではないか。

 1話冒頭、衛から“結婚式当日に婚約破棄される”という大凶イベントに遭遇するほこ美。式場内で衛を見つけて詰め寄るも、衛は逃げようとする。ほこ美は追いかけるが、足が絡まってしまい派手に転倒。顔を上げると涙目になりながら、鼻から血を出す。衛に対する怒りは覚えたが、それ以上にその見事な転びっぷり、なおかつその“負け顔”についつい笑ってしまった。

もし演じるのが奈緒じゃなかったら……

 役者の誰しもが負け顔をできるわけではない。負け顔ができない役者がほこ美を演じていたのであれば、派手に転んで鼻血を出したほこ美を見て、笑うことはそっちのけで過剰に同情していたかもしれない。また、海里のクズさにキュンキュンするどころか、海里が不幸になる“スカッと展開”を切望していたかもしれない。

 ただ、それではラブコメとしての方向性がブレて、面白さを大きく損うリスクが高い。奈緒の“やられっぷり”が見事なだからこそ、ラブコメと復讐モノという嚙み合わせの悪い2つの要素をミックスできているように思う。

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