強盗に入られたら、どこまで反撃していい? 94年前にできた「盗犯等防止法」が定める正当防衛の基準

強盗に入られたら、どこまで反撃していい? 94年前にできた「盗犯等防止法」が定める正当防衛の基準

●条文にない「相当性」の要件

一方、盗犯等防止法に基づく正当防衛を認めなかった判例もある。

中学生7人から強盗目的で暴行を受けた高校生が、持っていたナイフで中学生の1人の胸を刺し失血死させた事件で、最高裁は1994(平成6)年6月、盗犯等防止法1条1項の正当防衛が成立するための条件として、次のように判示した。

「当該行為が形式的に規定上の要件を満たすだけでなく、現在の危険を排除する手段として相当性を有するものであることが必要」

「ここにいう相当性とは、同条項が刑法三六条一項と異なり、 防衛の目的を生命、身体、貞操に対する危険の排除に限定し、また、現在の危険を 排除するための殺傷を法一条一項各号に規定する場合にされたものに限定するとともに、それが『已ムコトヲ得サルニ出テタル行為』であることを要件としていないことにかんがみると、刑法36条1項における侵害に対する防衛手段としての相当性よりも緩やかなものを意味すると解するのが相当である」

この最高裁決定では、中学生たちの暴行がメリケンサック以外の凶器を用いておらず、生命にまで危険を及ぼすようなものでなかったのに、高校生はナイフでいきなり中学生の胸を刺して死亡させたと指摘。

高校生の反撃行為を「身体に対する現在の危険を排除する手段としては、過剰なものであって、相当性を欠く」とし、盗犯等防止法に基づく正当防衛の成立を否定し、過剰防衛の成立を認めた原判断は正当との判断を示した(最高裁平成6年6月30日決定)。

●盗犯等防止法は今の日本社会に合っているか

昭和初期の強盗事件多発に対処するため制定された盗犯等防止法は、今の社会状況に照らして適切なものだろうか。

警察庁の集計によると、刑法犯の認知件数は2002(平成14)年をピークとして、2003(平成15)年から2021(令和3)年まで一貫して減少し続けてきた。ところが戦後最少となった2021年からは2年連続で増加し、2023(令和5年)は70万3351件と、前年比17.0%も増加している。治安は再び悪化の兆しを見せているのだ。

そんな中、いま世間を騒がせているのは、闇バイトなどを実行役に使った「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」による強盗事件や特殊詐欺事件の続発だ。

こうした事件では、実行役はSNSなどを通じたあいまいな文言での募集にアルバイトのつもりで応募し、指示役に身元を知られた上で脅迫されて不本意ながら犯行に加わっている場合もある。そのようなケースで、強盗の実行役が侵入先で返り討ちに遭っても殺され損というのでは、いかに強盗犯に非があると言っても、ちょっと酷な気がする。

盗犯防止法には、1条の正当防衛の規定以外にも考えるべき課題がある。

2〜4条では常習・累犯者に対する刑の加重を定めており、3条では、常習として窃盗や強盗、またはその未遂罪を犯した者で、その行為前10年内に同様の罪で3回以上6ヵ月の懲役以上の刑の執行を受け、またはその執行の免除を得た者には、窃盗では懲役3年以上、強盗では懲役7年以上を科すとして、刑法より重罰化している。事件や裁判の取材でよく聞くのが、この常習累犯窃盗だ。

ただ、常習的に盗みを繰り返す人たちの中には、金がないとか物が欲しいといった動機もないのに盗みの衝動が抑えられないという人もいる。

「クレプトマニア(窃盗症)」と呼ばれ、現在では精神疾患の一種であることが明らかになっているが、裁判で心神喪失や心神耗弱が認められることはほとんどない。こうした精神疾患で盗みを繰り返すような人たちについては、盗犯等防止法の常習累犯窃盗罪を適用して刑務所で長期間服役させるより、適切な治療を受けさせるべきではないだろうか。

94年前にできた盗犯等防止法が今の日本の実情に合っているかどうか、いま一度、検証する必要がありそうだ。

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