嫉妬と嫌悪を募らせる綾野剛の気持ちもわかる
綾野剛演じる隣人の売れない漫画家も重要だ。彼は社会的に成功できず、“パパッと描いた○のおかげでラクをして成功している(ように見える)”沢田にはっきりと嫉妬と嫌悪をつのらせ、完全に間違った行動に出てしまう。
その心理もまた極端なようで、やはり自身の努力が実らず、身近な誰かや有名人に「なんであいつが成功するんだ」と思ってしまうような、普遍的なものといえる。
それでいて沢田と完全に対立しているわけではなく、「お互いにウザいと思っているようで、だからこそ気になっていて、完全には嫌いになりきれない」ような、限りなく友情に近い関係が築かれていることが、とても尊い。
「今」の堂本剛を重ね合わせる理由
実際に荻上直子監督は本作を手がけるにあたって、堂本剛の過去のインタビュー記事をたくさん読み、その中で「20代~30代の頃は仕事が忙し過ぎて、自分というものがわからなくなってしまい、とてもツラい時期があったけれども、音楽に助けてもらった」といったことを知って、そこから「自分がわからなくなってしまう人のお話」として、今回の映画のストーリーをふくらませていったのだそうだ。
筆者個人は、前述したような映画の中の沢田が傷つき疲れていて、それでも優しさを感じさせる様は、荻上監督が参照した20代~30代の頃の堂本剛はもちろん、「今」の堂本剛を重ねるところもあった。
例えば、2017年に突発性難聴を発症したために一時活動を休止し、復帰後も後遺症と向き合い続けており、その告白に勇気づけられたという人は多い。さらに、2024年はももいろクローバーZ・百田夏菜子と結婚、さらにSMILE-UP.を退所して個人事務所を設立するという、大きな転機を迎えている。
客観的に見てもつらい時期が続き、その大きな転機を経て後遺症を抱えながらも音楽活動を続けていく堂本剛の姿は、映画『まる』の劇中で本人の意思とは異なることで評価をされ続け、困惑をしつつも流されていた沢田が、「それでも」自身が本当に望んでいるアートへの思いを捨てきれない様ともシンクロしている。
特に、終盤にとあることを吐露しながら涙する沢田の姿に、やはり「今」の堂本剛の姿を重ね合わせる人はいるはずだ。
もちろん、堂本剛は自身のとてつもない努力と信念があってこそスターになったのは間違いなく、客観的にはたまたま描いただけにも思える○が評価される劇中の沢田とは根本的にプロセスは異なる。しかし、アイデンティティーや創作についての苦悩を抱える様からすれば両者はほぼ同じ人物に見えるし、この世に存在するとしか思えない沢田を体現した堂本剛を、心から称賛したくなったのだ。
配信: 女子SPA!