●相談ケース「多くの場合は競業避止には当たらないとみられる」
——今回のケースでは、男性は前職の顧客とは接触していないとのことですが、それでも顧客リストの流用に当たることはあり得るのでしょうか。
男性が前職の会社との間で、競業避止条項を結んでいたのか、結んでいたとしてどのような内容の競業避止条項なのかを第一に検討することになります。そして、どのような場合に“顧客リストの流用”として規制されうるのかを考えます。
男性はそもそも前職の顧客と接触していないということですので、多くの場合にはこの段階で会社側の請求に理由がないと判断できるのではないかと思われます。
しかし、前述のとおり、どのような内容の競業避止条項なのかは男性と前職の会社で合意されたことですので、極端な話をすれば、“同業他社に転職しただけで顧客リストの流用とみなす”というような規定があるのかもしれません。
次の段階として、男性が結んだ競業避止条項について、裁判所が公序良俗違反で無効と判断する見込みを検討していくことになります。
前述の裁判例を参考として、男性の前職でのポジションや競業避止条項の内容、代償措置の有無、顧客リストの具体的な内容やその重要性の程度などが検討要素となるでしょう。
——競業に関する訴訟を避けるためには、どんな対策が考えられますか。
まずは、どのような競業避止条項を結んでしまっているのかを確認することが重要です。確認の結果、今後の人生設計や直近の転職先での活動を制限するような競業避止条項があった場合には、これを会社との間で解約するよう交渉することが考えられます。
交渉の際にも、前述の裁判例の基本的なスタンスや必要性・相当性の程度などを踏まえて問題点を洗い出し、会社に対して指摘していくことが有効となりうるでしょう。
最終的には退職時に作成する合意書(退職合意書)などで競業避止条項に効力がないことを合意するというのが1つのゴールとなります。
【取材協力弁護士】
石濱 嵩之(いしはま・たかゆき)弁護士
社会全体が活気をもって健全に発展していくため、新しい挑戦や新しい価値を追求していく方々を法律家として支えていきたいという思いで活動しています。様々な人との出会いから培ったバランス感覚や温かみのある解決力が強みです。
事務所名:万里一条法律事務所
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配信: 弁護士ドットコム