日本人にとっての「虫の声」
「虫の声を楽しむ」という風習は非常に珍しく、日本と中国以外の国ではあまり見られません。
日本人と虫の声の関係について見ていきましょう。
秋を感じさせる大切な要素
俳句では、「虫」といえば秋の季語です。
古来虫の声は、日本人にとって秋の訪れを実感する大切な要素でした。
虫に関する歌は、7世紀から8世紀頃にかけて編さんされた万葉集にも見られます。
また平安時代の貴族たちの間では、秋の野外で鳴く虫を取ってきて鳴き声などを競わせる「虫撰(むしえらび)」という遊びが流行していたそうです。
かの源氏物語の中にも、光源氏がスズムシの音色を楽しむ描写が見られます。
秋の虫の鳴き声は、自然を好む日本人の感性にマッチしていたのかもしれません。
江戸時代に虫の声を楽しむ文化が広まった
鳴く虫の声を楽しむ習慣が庶民に広まったのは、江戸時代に入ってからといわれています。
人々は秋に夕暮れになると郊外に出て、スズムシやマツムシの鳴き声を楽しみました。
「虫聴きの名所」と呼ばれるところが複数あり、現在の開成中学・高校がある付近は特に有名だったようです。
また晩夏から秋にかけては、江戸市中に「虫売り」が現れて鳴く虫を売り歩いたといわれています。
虫ブームによって虫かごもたくさん作られ、大名家では蒔絵(まきえ)を施した豪華なものが使われました。
日本における虫売りの風習は戦後まで続きましたが、高度経済成長期に入って以降衰退したといわれています。
虫の声を「言語化」するのは日本人だけ!
スズムシは「リーンリーン」、コオロギは「コロコロ」……、このように虫の声を聞くのは、世界中でもほぼ日本人だけだといわれています。
虫の声と日本語の関係についてご紹介します。
日本人は虫の声を「言語脳」で処理している
日本人が虫の声を聞くときは、言語などを司る「左脳」を使っているそうです。
これに対し西欧の人々は、音楽や機械音・雑音を処理する「右脳」で虫の声を処理しています。
日本人が風流だと感じる虫の声も、西欧の人々にとっては「雑音」に過ぎません。
この事実を解明したのは、東京医科歯科大学名誉教授・角田忠信博士でした。
角田教授によると、虫の声を左脳で聞くのは、世界でも日本人とポリネシア人だけなのだとか。
中国や韓国も西洋系といわれており、虫を声ととらえる人種は世界的にも珍しいといわれています。
日本語の言語学的特徴が原因
虫の声が左脳で処理されるのは、「日本語は擬声語、擬音語(オノマトペ)が高度に発達した言語だから」とする説が有力です。
虫の声に限らず、日本人は犬やネコの鳴き声も「ワンワン」「ニャーニャー」などと表現しますよね。
雨は「ザーザー」、風は「ビュウビュウ」など、擬声語、擬音語は数えきれません。
特に子どもの絵本などでは、たくさんのオノマトペがちりばめられる傾向です。
小さな頃からさまざまな音を擬声語、擬音語で学んできた日本人にとっては、虫の声も言語の一部として処理することが自然な流れなのでしょう。
まとめ
俳句では「虫すだく」「虫時雨(むししぐれ)」「虫聞(むしきき)」など、「虫」の入った言葉が秋の季語として使われています。
虫の声は、日本人にとって季節感や情緒を感じる重要な要素の1つといってよいでしょう。
暑さが落ち着いてきた今こそ、家族みんなで秋の虫の鳴き声を楽しんでみてはいかがでしょうか。
文/カワサキカオリ
配信: ASOPPA!
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