●学校や教育委員会は「知らない」では通せない
自殺予防教育に詳しい中央大学客員研究員・高橋聡美さん(精神看護学)は、JR横浜駅近くの商業施設で女子高校生による飛び降りがあったことから気を配っていた時期でもあったため、驚きを隠せない。
「たしかに自殺の動機らしきものは(SNS上に)書いてあります。何かを訴えたかったのかもしれませんが、それが自殺理由なのかははっきりしません」
今回の場合、Xで動画が拡散されて、アカウント凍結になったものの、いまだに匿名掲示板を通じて拡散されている。生徒とみられる男性の安否は不明だが、学校や教育委員会はどのように向き合うべきか。
「学校や教育委員会は、クラスや学年に対する説明をどのようにしていくのか、情報をどこまで開示するのか、もし亡くなっていた場合は、どんなふうに他の生徒に伝えるのか、遺族の意向に沿うのが、基本だと思います。
ただし、同じ学校の生徒はすでに動画投稿を知っているかもしれません。検索すれば出てきます。そのため(投稿の事実を)隠すこともできません。この点が、他のケースとは違うし、すでにたくさんの関係者たちに大きな衝撃を与えているはずです。
そのため、学校や教育委員会は『知らない』では通せないでしょう。投稿内容が事実であるとすると、学校に来ていないとか、飛び降りた周辺では救急車が来るなどして騒動だったはずです。状況的に説明せざるを得なくなると思います」
もしも恋愛関係のトラブルとして、学校や市教委はすべきことがあるのだろうか。
「最近のいじめやトラブルは、SNSなど、見えにくいところで起きていることもあります。なおかつ、匿名性が高く、相手を特定できないこともあります。相手が『同じ学校の在校生ではない』とか『居住市町村が異なる』場合は、学校や教育委員会は対応ができない。学校や教育委員会は何もわかりません。今の時点では、こうすべきというのは見えてこないです」
飛び降りの動機となったと思われる書き込みでは、ニックネームのようなものが記されていた。
「書かれている子が心配です。どういう関係なのか、はっきりしませんが、少なくとも本人はわかっているでしょうから、その子のケアが必要です。また、トラブルの相手は名前があがっていませんが、心当たりのある子は、すぐに大人に相談するなど話したほうがいいと思います」
●噂が広がっている場合は「報告」を考える必要がある
一般論として、中学生が自殺した場合、文部科学省の「指針」によって、すでに収集している情報をもとに、学校が基本調査をすることになっている。今回のケースでも亡くなっている場合、一定の調査が進められることになると思われる。
仮に、いじめの可能性がある場合、いじめ防止対策推進法による「重大事態」調査に移行する。いじめの可能性がない場合でも、学校生活に起因していれば、遺族の意向に沿いながら、背景調査をするかどうかを検討する必要が出てくる。
「調査の手順は遺族の意向によります。遺族が『触れてくれてほしくない』とか、『安否を含めて黙っていてほしい』という場合もあります。これを無視すると、二次被害になってしまいます。一方で、ある程度、学校内で噂が広がっている場合は、弊害が大きくなることもあります。
そのときは、遺族と学校、市教委で話し合って、どうやって報告するかを決めておく必要があります。自殺が起きたあとの軸足は『もうこれ以上、誰も傷つかない』ということです。スクールカウンセラーが在校生のケアをすることはもちろんのこと、関わりのあった先生方にもケアが必要です」(高橋さん)
配信: 弁護士ドットコム