●差し止め請求「ハードル高い」→慰謝料決着の可能性「かなりある」
──今回のケースで、仮に「隣地に建物が建つとしても29階まで」と担当者が言っていた場合、あるいは約束の形にまでなっていた場合、その一点で差し止めが認められるようなことはあるのでしょうか。
前述(2)のタイプの紛争では、マンション販売業者等が、買主に対して、購入時にどのような説明をして、どのような期待を持たせたかという点が重要です。
仮に担当者が「隣地に建物が建つとしても29階まで」と多くの購入者に明言していたとの事実が証拠上認められるような場合には、信義則上の義務違反を認める重要な根拠になり得ます。
もっとも、通常、裁判所の判断は、諸般の事情を総合的に考慮してなされるので、その一点で差し止めが認められる可能性は低いと思われます。
仮に営業担当者がそのようなセールストークをしていたとしても、一方で重要事項説明書において、「本マンションの周辺環境・景観・眺望及び日照条件に変化が生じる可能性がある」などと記載して説明していた場合には、その点も考慮されると思われます。
そもそも、建築の差し止め請求は、仮に認められれば土地所有者の所有権に対する重大な制約となりますので、一般論として、そう簡単に認められるものではなく、ハードルは高いといえます。
仮に「隣地に建物が建つとしても29階まで」と担当者が言っていたという事実が認められたとしても、建築の差し止めまでは認められず、信義則上の義務違反による慰謝料等が認められるにとどまる、という可能性もかなりあるものと予想されます。
〔参考文献〕 「眺望を巡る法的紛争に係る裁判上の争点の検討」(弁護士伊藤茂昭ほか/判例タイムズ1186号4頁) 『隣地・隣家紛争 権利主張と対応のポイント』(弁護士川口誠ほか)
【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルに特化して業務を行っている。不動産鑑定士・宅地建物取引士・マンション管理士・賃貸不動産経営管理士の資格を保有。
事務所名:秋山法律事務所
事務所URL:http://fudosan-lawyer-akiyama.com/
配信: 弁護士ドットコム