食材料費やエネルギー価格の高騰により、病院給食の運営は厳しい状況が続いている。昨年末、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会が、入院時食事療養費の引き上げを了承し、1食当たり30円値上げされ2024年6月から施行されたが、物価高騰は留まるところを知らず、追い付かない状況だ。
そもそも、病院の食事運営には家庭の食事では含まれない人件費や施設・設備費、修繕費、衛生管理費などもあり、2017年に厚労省が公表した資料をみても、全国の病院のほとんどの給食部門は赤字運営である。そこに、ここ数年続く物価高騰がのしかかり、さらに今年は「令和の米騒動」とも呼ばれる米価格高騰が給食の収支を圧迫している。こうした状況下で、病院給食の維持・継続を図るためにはどうすれば良いのだろうか。
9月30日には都内で「Creating the Future of Nutrition Forum ―医療・介護における栄養を取り巻く課題を考える―」イベントが開催され、全国から、大規模病院の栄養管理部門トップ層はじめ、介護食品を製造する食品メーカー、大手給食サービス企業、厨房機器・衛生管理商材メーカーの代表者ら約100名が参加した。
座長を務めたのは、全国国立大学病院栄養部門会議の委員長を務める利光久美子氏。ゲストスピーカーに塩崎彰久厚生労働大臣政務官を招き、病院給食の課題を整理し、議論した。
利光久美子氏は、「2024年(令和6年)度の診療報酬改定では、1食あたり30円値上げされたが、物価高騰分を回収するものではない。厚生労働省の社会保障審議会医療保険部は、報酬改定は、今後も引き続き、見直しを検討するとされた」と述べ、次の報酬改定で、さらなる引き上げを求める意向を示した。
全国国立大学病院栄養部門会議副委員長の野本尚子氏は、患者の入院中の食事提供に関わる現状と課題について詳しく説明した。2021~23年までの消費者物価指数の推移をグラフで示し、「昨今の国際的な原材料価格の上昇や、円安に伴う輸入コスト増により物価が高騰している。私たちの業界は、食料やガス・電気・水道などエネルギーコストを多く使用するため大きな打撃を受けている」と語った。
続けて「特定機能病院(国立大学病院)においては、食材費等が1日当たり1食30円引き上げられても、患者1日一人あたり平均869円が病院負担となる。例として1日500人の入院患者がいる病院では、年間1億6000万円の病院負担額が生じている」と課題を呈した。その上で、「食事療養費標準額に対して、病院の機能特性や地域性を加味した食事療養費の改定と、各病院が設定可能な食事療養調整費の設定を検討する必要がある」と提言した。
日本メディカル給食協会理事の中村仁彦氏(富士産業代表取締役)は、「病院給食では、医師から指示された栄養価を満たす食事提供が条件とされている。栄養価を満たしながら定められた食材料費内で提供するため、当社の調理師・栄養士は病院側の管理栄養士と協議しながら日々、献立を修正している」と現場の苦労を語り、フレッシュフルーツから缶詰への変更や品数減など、昨今の物価高騰により献立に様々な影響が出ていることを説明した。
そこで、協会において入院時食事療養費の基準費用額の改定に向けて、適正水準への引き上げを目指した作業部会を編成したことを説明。病院給食の調理業務を請け負う事業者の厳しい収益状況を調査し、厚生労働省に食事療養費の適正化に向けた要望書を提出する考えを示した。
物価高騰以外にも、病院給食の食材料費を圧迫する要因がある。それは、食形態変更に伴うとろみ調整食品や嚥下調整食などの食品購入費である。病院・介護施設などにいわゆる介護食品を提供する事業者が集う日本メディカルニュートリション協議会会長の原浩祐氏(ニュートリー執行役員)は、「食材費が上昇する要因にもなりうるが、品質管理や人員コスト削減のために市販食品の活用が有用だ。安全・安心で均整がとれた嚥下調整食品をうまく活用すれば、医療費も抑制できる。さらに、在宅介護の場面でも誤嚥性肺炎を予防する効果も期待できる」と特別用途食品をはじめとした適切な嚥下調整食品を活用するメリットを語った。
塩崎政務官は、「厚生労働省では、今回の報酬改定において、食品に関する報酬点数を引き上げ、皆さんのさらなる活躍のための支援を行ってきた。これからますます管理栄養士・栄養士・調理師の皆さん、そして関係業界の皆さんと密接に力を合わせて、世界一の健康寿命を誇るこの日本の医療・介護の力を発展させなければならないと考えている。今日のフォーラムを通じて私も学ばせていただき、厚生労働省としても、引き続き全力で皆さんの取り組みを支援させていただきたい」と語った。
配信: 食品産業新聞社ニュースWEB