日本の食卓に寄り添った名優・西田敏行さん、1979年発売「5/8チップ」のCMなどに出演【食品産業あの日あの時】

日本の食卓に寄り添った名優・西田敏行さん、1979年発売「5/8チップ」のCMなどに出演【食品産業あの日あの時】

歌手、俳優、司会者、タレントとしてマルチに活躍した西田敏行さんが逝去した。76歳だった。幅広い演技力と人懐っこい笑顔で多くの番組、作品に引っ張りだこだった彼は、食品関連企業のCMにも多く出演した。『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』(NET系)でコメディアンとして世に知られるようになった1976年には、早くも日清食品「ふとめん味助」のCMに起用されている。

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多くの人々の記憶に残っているのは1979年に発売されたヱスビー食品(現・エスビー食品)「5/8チップ」だろう。「ひとくちで食べられるポテトチップがあればいいのに」という女性社員の声をヒントに開発されたという「5/8チップ」は、確かに食べやすいサイズではあるものの、商品自体はあくまで当時日本で流行していた成型ポテトチップス。そのため同社はスナック菓子では珍しかった黒を基調とした箱型パッケージを採用し差別化。CMにも従来品「スナックチップ」のキャラクターを務めていた俳優の水谷豊さんではなく、あえて新キャラクターの西田さん起用し、まったく異なるコンセプトの商品であることを訴求しようとした。

前年にドラマ『西遊記』(日本テレビ系)の猪八戒役でお茶の間の人気者となっていた西田さんはCMで「今日は、正式な5/8サイズの『スナックチップ』を作ってみましょう、と思いましたが時間がないのであらかじめ用意してございます」と独特のユーモラスな語り口で切り出すと、自身の大きな顔と比較するかのように小ぶりな「5/8チップ」を見せつけ、ひとくちで食べて見せた。

西田さんは当時『パックインミュージック』(TBS)のDJとしても人気を集めていたこともあり、翌年にはラジオDJに扮したバージョンも制作された。『池中玄太80キロ』(日本テレビ系)で人気俳優の地位を確立してからは、ドラマ中の役どころもあってか家庭的なイメージのCMが相次いだ。前出の「5/8チップ」でも父親を演じる新バージョンが製作された。

1983年からは雪印乳業(現・雪印メグミルク)のファットスプレッド「ネオソフト」のCMに出演。子供たちとともに美味しそうにパンをほおばる西田さんの笑顔と「パンにはやっぱりネオソフト♪」のサウンドロゴは80年代を通じて親しまれた。また食品ではないが、台所用洗剤「ママローヤル」(ライオン)のCMに夫人の寿子さんが出演したことも話題となった。

1990年、西田さんはNHK紅白歌合戦に白組の司会として出場した。歌手、応援団、審査員、そして司会者として紅白に出場した経験のある人物はこれまで西田さんただ一人だ。この年から2000年まで、西田さんはミツカン「味ぽん」のCMキャラクターを長く務めた。どこか温かみを感じさせる彼のたたずまいは、鍋物の必需品である「味ぽん」との相性もぴったりだった。1995年からは当時中学生だった俳優の前田愛さんと親子を演じるシリーズも長く放映され、好評を博した。

2002年にはカルピスの特定保健用食品(トクホ)「健茶王」のCMに起用されるが、その直後、西田さんは心筋梗塞に見舞われ緊急入院してしまう。幸いにして大事には至らず約3週間で退院したが、これを機に西田さんは禁煙、減量に成功。日ごろの適度な運動とバランスのよい食事の大切さを身をもって証明したことで「健茶王」のCMにも2006年まで継続起用された。

2011年の東日本大震災以降は、故郷福島の食品に対する風評被害払拭のため、県内外でのPR活動に尽力。2018年には福島県民栄誉賞も受賞した。2024年1月には俳優の松重豊さん、松岡茉優さんとの鼎談で、西田さんが福島産のコメやメヒカリの魅力を語る動画が公開されたばかりだった。生涯を通じて日本の食の発展にも大きな足跡を残した名優の冥福を祈りたい。

【岸田林(きしだ・りん)】

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