●ある日不安症な 夫が仕事で大失敗!
「夫はバカがつくくらい生真面目な性格、私はその真逆で楽天家。夫は不安症な面もあるので、会社で本当にうまくいっているのか…子どものように心配になることがあります」(A子さん 以下同)
A子さんは、東京都下のマンションに住む美人妻。話しやすい雰囲気を持ち、誰もが心を開いてしまいそうなママさんだ。夫は中堅商社に勤務する新米中間管理職だが、性格的にも、あまり管理職には向いていないとA子さんは語る。
「元々無口でコミュニケーションが上手なタイプじゃないので、部下をほめて伸ばしたり彼らに声掛けするのが難しいようです。そのため、部下たちにやる気が感じられず、売り上げが上がらないのをすべて自分のせいにされる…と日々こぼしていました。普段から、思い余った時は愚痴を素直にこぼせる人なので、私も極力夫を傷つけない程度に、それなりにアドバイスをしてきました」
A子さんの朗らかさも手伝って、夫婦仲は良く、家庭は円満。そんななか、夫にこんな悲劇が起こる。
「会社にとって大きなクライアントである取引先の方に向けた戦略を、記録が残るように部下とメールでやりとりしていたようなのですが、部下の方が、そのクライアントに企画書を添付して送る際、添付文書の下の方にその戦略メールのやりとりを残したまま送信してしまったとのことでした。企画書を作る際、主人とのメールのやりとりを参考にしながら作成していたようで、そこにはクライアントについて“お金にシビアな人だから”“朝は不機嫌だから…”など、悪口めいたことが赤裸々に書かれていたそうです。最後にメールで企画書を確認した主人も、下にスクロールすることをせず、その文書が張り付けられていたことを確認できなかったとのことでした。その後、企画書を印刷した部下からこの報告を受けた主人は真っ青に。すぐに謝罪のメールを送り、菓子折りを持って謝りにいったところ、先方は許してはくれたものの、その態度はどこかぎこちなかったと言って落ち込んでいました。もちろん上役から大目玉を喰らったのは言うまでもありません」
●仕事の大失敗によって夫は相当なストレスを抱え…
事件があった日の夫は、「会社を辞めてしまいたい…どうしよう、どうしよう。俺は管理職には向いていない」と言い、相当なストレスを抱えていたという。
「一時は食欲もなかったので本当に心配しましたね。“代わってあげたい”と思うほどでした。私には、美味しい料理を作る、彼を励ましながら気持ちを吐き出させてあげることくらいしかできませんでしたし、“このまま辞めてしまうんじゃないかな?”と思いました。彼の気持ちをリラックスさせるためにも“もしも本当に嫌なら、仕事、転職してもいいよ。私もパートをして働くから…”と声かけするのがやっと。土日はため息の連続でしたが、それでも夫は、会社を辞めませんでした」
A子さんの手料理と、「大丈夫なの?」という日々の声かけが功をなしたのか、夫は次第に立ち直り、会社に出掛ける時の顔も明るくなっていったという。
「今思うと、いい経験になったのではないでしょうか。夫も子どもと同じで、失敗を経て、またひとつ男として、大きくなったのかもしれません。私も不安な日々でしたが、努めて明るく振る舞うようにしていましたし、一緒に落ち込んではダメだ…と言い聞かせていました。男の人って、精神的にも、女性よりはるかにもろいのかもしれませんね。相変わらず、部下のコントロールには悩んでいる様子ですが、主人にも部下の皆さんと一緒に成長していって欲しいですね」
この事件について、心理カウンセラーの小川のりこ氏はこうアドバイスする。
「旦那様はとても真面目な方ゆえ、この責任をとても重く感じてしまったのでしょうね。A子さんの支え方はとても良かったと思います。美味しいものを作る…ただ気持ちを吐き出させてあげる。いざとなったら私が働くという姿勢も、一緒に落ちこんではいけないという心構えも、とても立派だったと思います。こういう状況でご主人に必要なのは、“安心感”なんですよね。社会では日々戦っていますから、せめて家のなかではリラックスしたいのが男性の本音。でも、苦しさを吐き出した瞬間、家族への申し訳なさも同時に感じてしまう。そんななか奥さんが常に前向きで、そっとそばに寄り添ってくれた…ご主人にとっては、とても嬉しいことだったと察します」(小川氏 以下同)
逆にミスを問い詰めたり、ながら聞きしたりなどの行為はNGだとアドバイスする小川氏。A子さんは、「弱った男性をほうっておけないのは、昔からなんです(笑)」と明るく語っていたが、彼女のように日々夫への感謝を忘れず、いたわりの気持ちを持ち続けていれば、“仕事のミス”という困難も、夫婦の絆をより深くする事件のひとつとなるのではないだろうか。
(取材・文/吉富慶子)