15年近く付き合い、「ずっと一緒にいよう」と約束していたという彼氏から、一方的に別れを告げられたという相談が、弁護士ドットコムに寄せられています。
女性は、結婚や同棲はしていませんでしたが、長年付き合ってきた彼氏がいたといいます。「ずっと一緒にいる」という約束を交わし、お互いの両親とも交流があり、家族同然の付き合いをしていました。
また、女性は彼氏の通帳や実印の管理もしており、共同で自動車も購入したそうです。彼氏の生活が苦しい時は経済的に支えたり、彼氏が自動車の運転免許を取る費用を援助したりしてきました。
しかし突然、彼氏から「好きな人ができたから別れてほしい」と一方的に言われ、女性が拒否すると、構わず新しい女性と二股の交際を始めたそうです。
女性はショックを受けましたが、最終的には別れる決意をし、その際に自動車の処分をしてほしいと彼氏に言いましたが、名義は彼氏のものであり、拒否されたとのことです。
その後、彼氏からは何の連絡もないまま、女性は精神的苦痛を受けているそうです。女性は彼氏との長年の交際にどのように決着をつけられるのでしょうか。鈴木菜々子弁護士に聞きました。
● 法的に婚約が成立したと認められるポイント
——女性は結婚の約束を明確にしていませんでしたが、彼氏と15年近く付き合っており、「ずっと一緒にいる」ことを前提に、自動車を共同で購入したり、お互いの家族とも付き合いがあったとのことです。女性側は彼氏に婚約不履行の慰謝料請求はできるのでしょうか。
結論として、法的には難しいものと思われます。婚約破棄の慰謝料請求が認められるには、婚約が成立しているといえる必要があります。
過去の多くの裁判例によると、法的に婚約が成立したと認められるには、合意内容の明確性や真摯性が問われています。そして、合意内容の明確性や真摯性の判断要素としては、当事者の口約束のみならず、結納や結婚式場の下見、婚約指輪の購入(あるいはこれらをしないことの合意)等の婚姻に向けた具体的な行動の有無を重視する傾向にあります。
女性は彼氏との間で「ずっと一緒にいる」という約束を交わしていたということですが婚約というには抽象的な内容に留まります。
女性と彼氏の間で、婚姻に向けた具体的な行動はなされていないことを考えると、お互いの両親とも交流があり、彼氏の通帳や実印の管理もしていた事実があったとしても、それだけでは婚約の成立は認められないと思われます。
そのため、慰謝料請求は認められない可能性が高いです。
● 女性は共同購入した自動車の破棄を希望しているが…
——女性側はせめて共同で購入した自動車を破棄して欲しいと願っているとのことですが、名義は彼氏になっているとのことです。破棄が難しい場合でも、女性側は何らかの法的手段はとれるのでしょうか。
自動車の所有者名義が彼氏になっているのであれば、女性が勝手に自動車を処分することはできません。
ただし、自動車は女性と彼氏が共同購入したものであるとのことです。共同で使用するために自動車を共同購入していたのであれば実質的には共有物にあたると思われます。
この場合、女性は彼氏に対し、民法上、彼氏の持分を超える使用の対価(使用料)を請求することができます。それぞれの持分ですが、民法上は別段の合意がない限り、各共有者の持分は等しいものと推定されます。
おそらく、このケースでは共有持分について明確に定めていなかったと思われますので、共有持分は2分の1となる可能性が高いです。ですので、女性はカーリース料金の相場等を参考にした使用料の2分の1を彼氏に請求する余地があります。
ただし、もし自動車の維持費を彼氏だけが負担している状況なのであれば、女性は彼氏から持分に応じた維持費の請求をされる可能性があります。
なお、共有物の処分については民法上、共有者全員の同意が必要です。そのため、自動車が共有物であり、仮に共同名義で登録されていたとしても彼氏が同意しない限り自動車を処分することはできません。
いずれにしても彼氏が女性の求めに応じない場合は、女性は裁判で自動車の共有持分の確認、共同名義での登録の請求、使用料の請求等をしていく必要があります。しかし、共有関係にあることの立証はそう簡単ではないと思われることと、時間的費用的負担を考えると、裁判までするのはあまりおすすめできません。
【取材協力弁護士】
鈴木 菜々子(すずき・ななこ)弁護士
弁護士登録以降、離婚・相続を主とした家事事件に注力。千葉市の弁護士法人とびら法律事務所は、離婚事件については累計5000件以上の相談実績を誇る。法的知識だけではないノウハウの蓄積に基づき、真の問題可決を目指している。また、なるべく裁判所を使わずに迅速に案件を解決することに力を入れている。
事務所名:弁護士法人とびら法律事務所
事務所URL:https://www.tobira-rikon.com
配信: 弁護士ドットコム