「町内会を退会したいのにやめさせてくれない」
そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。相談者によると、今住んでいる家に引っ越してすぐに町内会の勧誘をされたそうです。
相談者は夫婦共働きで不在なことが多く、休みも少ないために、何度も断りましたが、「ここに住む以上は絶対だから」と言われ、渋々入会したといいます。
しかし、行事が毎月のように開かれ、回覧板も毎週回ってくるなど、町内会に関わる機会は多いものの、仕事の都合でなかなか協力できない相談者は、町内会から「迷惑だ」などと文句を言われていたそうです。
そこで、退会を申し出たものの、「そんなことはできない。もし退会したら、災害の時や火事の時に助けてもらえないからね」と認めてもらえなかったとのことです。困って自治体の役所で相談したものの、「勧誘も退会も任意ですが、できるだけ我慢してほしい」と言われてしまったといいます。
相談者は「行事に出られないのは申し訳ないと思っていますが、規約通りに町内会費や出不足金(行事に不参加の代わりに支払うお金)も払っています」とうったえます。それでも、周囲から悪口を言われたり、日常生活を見張られていると感じているそうです。
限界を感じた相談者は、町内会長に直接、退会届を出しましたが、やはり認めてもらえず、「周囲に白い目で見られるからね」と言われた上に保留とされてしまったそうです。
相談者が町内会を退会することは難しいのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞きました。
●最高裁判例は「一方的意思表示により退会できる」
——町内会を退会させないことは、法的に問題ないのでしょうか。
日本国憲法21条には結社の自由が定められています。 これは団体を作る自由、既にある団体に加入する自由、加入した団体から脱退する自由を定めたものです。
日本には一部の職業(弁護士、司法書士、税理士など)について強制加入の職業団体があります。
これらの職業では、その職業で稼働する場合には必ず加入することが必要で、退会するとその仕事ができません。
しかしこういったものを除いて、団体への加入・脱退は自由で、町内会も同じです。入るのも自由であれば退会するのも自由であり、退会の意思を表明した住民に対して、町内会長などが「これを認めない」とすることはできません。
この点、平成17年4月26日最高裁第三小法廷判決も、県営住宅の自治会(町内会と同様のもの)は強制加入団体ではなく、いつでも一方的意思表示により退会できると判示しています。
●エスカレートすれば罪に問われることも
——退会しようとした人に対して「災害時には助けてもらえないからね」「白い目で見られる」などと声をかける行為には、法的な問題はないのでしょうか。
確かに町内会に入っていないことによって、災害時に町内会で備蓄している食料品や日用品の供与を受けることなどはできなくなります。
そのため、親切心で「そういった不便があるよ」と教えること自体は、問題ありません。
ですが、それを超えて「助けてもらえない」「白い目で見られる」などと半ば脅すように言うことは、威圧的な言動により他者を精神的に追い詰めることになるので、精神的苦痛を与えたことを理由に慰謝料請求(民法709条、710条)の対象となることが考えられます。
また、このような威圧的な言動を繰り返して町内会からの退会を妨害する行為は、その態様によっては、強要罪(刑法223条)や脅迫罪(刑法222条)に該当する可能性もあります。
町内会は確かに近隣住民の生活にとって重要な役割を果たしてはいますが、その利益を享受するかどうかは住民個人が自分の意思で決めるべき問題です。
昨今は町内会の加入者が減少傾向で、町内会活動に支障が生じることも少なくないようです。
しかし、だからといって、半ば脅すようにして退会を妨害するのは逆効果で、かえってトラブルを招き、他にも退会希望者が出てくるリスクがあります。
町内会活動を盛んにするためには、住民が加入したくなる魅力ある町内会にするための議論をするべきでしょう。
【取材協力弁護士】
寺林 智栄(てらばやし・ともえ)弁護士
2007年弁護士登録。札幌弁護士会所属。法テラス愛知法律事務所、法テラス東京法律事務所、琥珀法律事務所(東京都渋谷区恵比寿)、ともえ法律事務所(東京都中央区日本橋箱崎町)、弁護士法人北千住パブリック法律事務所(東京都足立区千住)を経て、2022年11月より、NTS総合弁護士法人札幌事務所。離婚事件、相続事件などを得意としています。
事務所名:NTS総合弁護士法人札幌事務所
事務所URL:http://nts-law.jp
配信: 弁護士ドットコム