「刑務所は再犯生産工場や」 刑期を終えた河井元法相 獄中で初めて知った受刑者たちの”声なき声”

「刑務所は再犯生産工場や」 刑期を終えた河井元法相 獄中で初めて知った受刑者たちの”声なき声”

●拘禁刑導入に向け提言「現場の声の徹底した聴き取りを」

来年6月、これまでの「懲役刑」と「禁固刑」を一本化し、受刑者の立ち直りに重きを置いた「拘禁刑(こうきんけい)」が導入される。刑罰の種類が変わるのは明治40(1907)年に刑法が制定されて以来だ。

日本の刑事政策が大きく転換しようとする歴史的なタイミングで受刑者となった河井さん。拘禁刑の導入に向けて、元法務大臣・副大臣と元受刑者という両方の立場から述べたいことがたくさんあるという。

「もう決まったことだからしょうがないけど、まず拘禁刑という名前がちょっと芸がない。教育の観点を重視するというのが法律を改正した趣旨なのに、拘束の『拘』と、これまで禁固刑などで使ってきた『禁』という字を合わせて、いかにも役所らしい、取ってつけたような名前だなと思います」

現在、拘禁刑の導入に向けて全国の刑事施設で様々な試行的取り組みが始まっている。そんな中、河井さんは今年6月、服役中に書きつづった月刊誌の連載をまとめた『獄中日記』(飛鳥新社)を出版した。

その中で「刑務所改革への提言」として、(1)刑事施設職員や出所者への聞き取り(2)職員の意識改革と態勢増強(3)受刑者の心を動かすプログラムと多種多様な情報を提供する体制づくりーーの3点を上げている。

「物事を変える時は現状をきちんと把握して分析しなければなりませんが、それができていません。

その原因は、刑務所がピラミッド型の組織であり、現場の最前線にいる刑務官が上に提案する文化がないからかもしれません。ですから、まずは現場の刑務官や元受刑者たちが何を考えているのか、徹底的に聴き取る必要があります。

そして、もし私が現職の法務大臣だったら、矯正の現場を全く知らない畑違いの人材を外部から集めて諮問委員会のようなものを作って、これまで役所が気付かなかった新鮮な角度から、受刑者の意識を踏まえた再犯をしなくなる処遇のあり方をぜひ検討させたいですね」

●自主性を奪う刑務所 「立ち直りは本人任せ」

河井さんは著書で、受刑者が作業中にトイレを行き来するだけで18回も刑務官の許可を得なければならなかったエピソードを紹介している。

塀の中では徹底的に「自主性」を奪われる。それなのに、外に一歩出ると自分の頭で考え、行動しなければならない。塀の中と外とのギャップはあまりにも大きく、刑務所が立ち直りを阻むハードルを自ら生んでいるという見方さえできるのが実情だ。

「刑務所は国民に対するサービス産業だと思います。犯罪が減ることによって一番便益を得られるのは国民です。今の刑務所は施設を管理・運営するという発想ですが、サービス産業だと考えれば、受刑者の意識を変え、真っ当に人生を生き抜く力をつけさせることを一番大事にするようになるはずです。一生刑務所に押し込めてなんておけない。いつかは社会に戻すわけでしょ。出所した後の人生を刑務所に入った瞬間から考えさせる環境を整えなければなりません」

日本では今、刑法犯の認知件数が大きく減少傾向にある。一方で、刑務所を出た人の約半数がまた塀の中に戻ってきているという現実もある。そもそも懲役刑に意味はあるのだろうか。

「本人が反省しているかどうか、確かめるすべはないんです。私は出所した後のことを考えて、自由時間に本を合計で870冊読んだり英語の語彙を数千増やしたりして毎日毎日勉強しました。でも、多くの受刑者は自由時間に布団にくるまって寝ていました。もったいないなと思ったけど、刑務所では誰かが導いてくれるというようなことがありません。職員が受刑者の心情を把握する面接も入所直後の1回を除けば皆無でした。本当に受刑者任せにさせられているんです」

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