●検察の捜査に疑問「明示的な決まりを作るべき」
新聞報道によると、河井さんは2019年の参議院選挙で、妻の案里さんを当選させるために広島県内の議員ら100人に選挙運動報酬として合計約2900万円を配ったとして、東京地裁で懲役3年、追徴金130万円の実刑判決を言い渡された。
起訴内容を争ったが、「政治家として責任を取る」として刑に服することを決めた。だが、今も検察の捜査に疑問を持っているという。
当初、河井さんから現金を受け取った人たち全員が不起訴とされたため、河井さんの弁護団は裁判で「違法な裏取引が検察の取り調べで行われたことは十分に推認される」と主張したが、判決では無視された。
しかしその後、検察審査会の議決を経て被買収側の9人が在宅起訴、25人が略式起訴され、有罪判決が下った。
「弁護団は、最初から起訴されると分かっていたら『あの金は選挙買収でした』と自らが失職することに繋がるような、検察が欲しがる供述なんてする訳がないと考えて、私の政治的な責任とは別の観点から法律の運用や捜査の手法として検察が被買収側を全員不起訴としたのはおかしい、嘘の証言を生むものだと主張しました。それに、当局の恣意的な判断で『これはアウト』『この人はセーフ』と決めるのは危険です。
政治家は常に次の選挙が頭にあります。それを捉えて選挙買収だと断じれば、お店で買い物することなどおよそ政治家が行う日常生活全てが買収になってしまう。国会議員のみなさんは『自分は関係ないよ』と思っているはずです。私もこれまで先輩の議員が捕まることがありましたが人ごとだと思っていました」
河井さんはそう吐露したうえで、条文に曖昧さが残る公職選挙法を改正する必要性に言及した。
「だから、例えば、投票日から6カ月以内はいかなる理由でも金銭のやり取りをしてはいけない、などという明示的な決まりを作るべきだと思います。そうしないとその時々の情勢次第で政治家はいくらでも逮捕されますよ」
この話の流れで、記者は自民党の裏金問題についての見解を尋ねようと考えていたが、「自ら関わっていないので分かりません」という理由から話は聞けなかった。
●「囚人のパラドックス」と「受刑者脳」
<大多数の受刑者は工場では真面目に作業し、居室でもおとなしく過ごし、毎日規則正しい生活を送っている。しかしながら、そうやって一日も早く仮出所を認められたい一心で受刑生活に適応しようと真剣に努力すればするほど、次第に「塀の外」ではなくて、「塀の中」の方が「現実」に思えてくる。そして、出所後の自分の姿が想像しにくくなってしまう>(「獄中日記」から引用)
さらに、受刑者は社会復帰後の生活に不安が高まる一方となるため、とりあえず今は刑務所の生活だけを考えようと思考停止に陥ってしまうという。
こうした実情を河井さんは、「囚人のパラドックス」や「受刑者脳」と表現する。加えて、日本は諸外国と比べて社会と刑務所の間にある「壁」が厚いことも拍車をかけていると指摘する。
更生に役立つ情報の不足、心情把握の機会の欠如、自主性を奪う処遇、閉鎖的な組織風土など、日本の刑事施設はさまざまな課題を抱えている。しかし、それは刑務所だけの問題ではないという。
「起訴することによって、あるいは判決文を書くことによって、目の前の人が刑を終えて出た後にどういう人生を歩むことになるのか。そうしたことへの想像力が欠けているのではないでしょうか。裁判所や検察庁は自分の庭しか見ていないような気がします。裁判官や検察官には一週間でもいいので刑務所に体験入所してほしい(笑)。そうすれば少しでも日本の刑事司法の全体像をつかめると思います」
河井さんは、所属や肩書きの部分が空白となった名刺を手に新たなスタートを切ろうとしている。
「再犯のない社会作りの役に立ちたい。世のため人のために尽くし、日本や広島のために貢献していきたいと考えています」
配信: 弁護士ドットコム