「家に帰りたくないのか、社員が1人で無断で夜遅くまで会社に残り続けています。この場合、残業代を支払う必要があるのでしょうか」
弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられています。
相談者は、会社で人事労務を担当していますが、ある社員に頭を悩ませているとのことです。相談によると、その社員は、定時の5時を過ぎた後も、ダラダラと無断で1人会社に残っており、たまに仕事のメールを送信しては、会社で仕事をしていることを記録に残しているようです。
相談者がその社員に話を聞くと、「仕事で残っているわけではない」と話しており、現に会社は残業代を支払ってはいません。
相談者としては、「社員が単に家に帰りたくないだけ」と考えていますが、この社員によるメール送信という記録が残っていることもあり、残業代を求められた場合に支払う義務があるのか、気になっているようです。
この場合、会社は残業代を支払う義務があるのでしょうか。中村新弁護士に聞きました。
●「残業していた」と認定される可能性
——やはり、残業代を支払わないといけないのでしょうか。
結論から申し上げると、このケースで残業代が請求された場合、会社は残業代を支払う義務を負うことになる可能性が高いと思われます。
会社にダラダラ居残っている社員は「仕事で残っているわけではない」と言っているようですが、断続的に、とはいえ業務と関連するメールを送信しているので、そのメール記録を証拠として提出されると、メールを送信した時間までは残業をしていたと認定される可能性が高いと言わざるを得ません。
パソコンのログまで証拠提出された場合は、ログアウトまでの時間が時間外労働の時間とされるおそれもあります。残業の指示ないし命令まで出しているわけではないと反論しても、黙示の指示があったと言われた場合、反証することも難しいと思われます。
●会社側ができる「対策」は?
——では、会社側に何かできることはありますか。
このような事態を防ぐためには、例えば、以下のような対策を講じる必要があります。
・上司がメール等で明示的に命令した場合を除き、残業は原則禁止とし、従業員が残業を希望する場合は、特に許可があった場合のみ認めることとする。
・所定労働時間外の会社パソコンの使用も、原則禁止とする。
・この方針を、文書等で通知し、記録を残す。
・残業を許可する場合も、書面等で許可願を出させ、可能であれば、許可する時間数も明示的に制限する。
・事前許可を得る時間的余裕がない状態で必要な残業をした場合も、事後的に残業時間数と残業の理由を明記した届出を出させ、会社が承認する形を取る。
煩雑と思われるかもしれませんが、細かい残業時間も積もり積もればかなり大きくなること、また、2020年月4月1日以降、残業代請求権の消滅時効が2年から3年に延びたことを考慮すると、まとめて残業代を請求された場合の会社の損害は無視できないレベルになる可能性があります。残業時間の管理には、十分な注意が必要です。
【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。2023年4月より東京労働局労働関係紛争担当参与。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/
配信: 弁護士ドットコム