警察官のカメラ着用、試験導入…「撮られたくない人」置き去りでいいのか? 弁護士「かなり課題ある」と懸念

警察官のカメラ着用、試験導入…「撮られたくない人」置き去りでいいのか? 弁護士「かなり課題ある」と懸念

●警察比例の原則に違反する録画なのか?

警察官のウェアラブルカメラによる録画が警察比例の原則に違反するか否かという問題については、犯罪捜査目的の録画なのか、犯罪予防目的の録画なのか、という視点【13】が重要です。

犯罪捜査目的の録画の場合には、先に述べた京都府学連事件判決の射程が及びうるので、「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるとき」に許容されるという同判決の判断枠組み【14】(その要件は警察比例の原則が具体的に展開されたものといえる【15】)が妥当する場合がありますが、今回の件は、(a)~(c)すべて、基本的には犯罪予防目的の録画の場面です【16】から、同判決の判断枠組みが直接妥当する事案類型とはいえません。

犯罪予防目的の録画の場合については、「釜ヶ崎監視カメラ事件判決」【17】が重要です。

この裁判例は、「情報活動の一環としてテレビカメラを利用することは基本的には警察の裁量によるものではあるが、国民の多種多様な権利・利益との関係で、警察権の行使にも自ずから限界があるうえ、テレビカメラによる監視の特質にも配慮すべきであるから、その設置・使用にあたっては、(1)目的が正当であること、(2)客観的かつ具体的な必要性があること、(3)設置状況が妥当であること、(4)設置及び使用による効果があること、(5)使用方法が相当であることなどが検討されるべきである。そして、具体的な権利・利益【18】の侵害の主張がある場合には、右各要件に留意しつつ、その権利•利益の性質等に応じ、侵害の有無や適法性について個別に検討されることになる」と判示しました。

すなわち、この裁判例は、(1)目的の正当性、(2)客観的・具体的な必要性、(3)設置状況の妥当性、(4)設置・使用の効果の存在、(5)使用方法の相当性といった5つの要件を満たすべきであるとした上で、前述の京都府学連事件判決の趣旨から特段の事情のない限り犯罪予防目的での録画は許されないと判示しました【19】。

警察官のウェアラブルカメラによる録画についても、この裁判例が参考になります。この裁判例の判断枠組みの5要件は、警察比例の原則が具体的に展開されたものといえますので、この判断枠組みに照らすと警察比例の原則に違反する録画だとされる場合もありえるでしょう。

●(a)職務質問の際の録画について

今年、人種・肌の色・国籍・民族的出自などに基づき捜査対象を選別する手法を意味する「レイシャル・プロファリング」の違憲・違法等を争う「人種差別的な職務質問をやめさせよう!訴訟」が提起されました【20】。

このようなレイシャル・プロファリングによる職務質問は、そもそも職務質問の要件を満たすのかという問題があるわけですが、このような問題とともに、レイシャル・プロファリングによる職務質問の際の録画については、前述した釜ヶ崎監視カメラ事件判決の(5)使用方法の相当性等の要件を欠くものになるでしょう。

また、同判決の判断枠組みに照らすと、警察官職務執行法2条1項に規定される職務質問の要件を満たしただけで、職務質問の際の録画が当然に適法なものになるとはいえないと考えられます。警察官職務執行法2条1項の要件と同判決の判断枠組みは同一ではなく、前者は後者を包摂するものではないからです。

なお、職務質問等の対象となる人の録画が適法となっても、その対象以外の人が録画されてしまった場合は違法になるとは限りません。

京都府学連事件判決も「警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうる」としています。要するに、警察比例の原則に違反しなければ、そのような場合であっても適法となりうるでしょう。

ただし、同判決は、犯罪予防目的ではなく犯罪捜査目的での撮影の事案の判例ですから、本件のように犯罪予防目的の場合の録画の問題については、警察比例の原則がより慎重・厳格に適用されるべきと考えられます。

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