自宅避難に!災害に強いトイレに必要な準備とは?


説明:トイレ室内の棚などから硬いものが落ちてきて便器が破損した時の対処法(参考:空気調和・衛生工学会 報告書)

災害に遭った時、避難生活でストレスなく排泄できるかどうかは、その人の健康状態に直結します。トイレに関して、日頃どういう備えをしたら良いのか?災害時のトイレについて研究し、啓発活動を続ける日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さんにうかがいました。

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トイレの棚に重いモノ、硬いモノは置かない

災害時にトイレを使うためには、便器が破損していないことが重要です。便器自体は床に固定されているので、地震で倒れることはほぼありません。一方、過去の地震では、トイレの棚などから物が落ちて便器に当たり、破損する被害が発生しています。まず、トイレの棚に重いモノ、硬いモノが入っていないか確認しておきましょう。棚の中だけでなく、落下して便器を破損するようなものがあれば、トイレ室内の中の配置を見直す必要があります。

便器は排水管を通じて、浄化槽や下水道につながっているので、便器が壊れると臭気や排水が逆流してしまうことがあります。もし便器が破損してしまった場合は、ビニール袋の中に布を入れ、それを排水口に詰めることで、臭気や排水の逆流を防ぐことができます。

照明を用意しておく

停電すると、トイレの室内は真っ暗になってしまいます。暗いトイレは不安になるだけでなく、うまく拭けたかどうかもわかりづらくなります。清潔を保つ意味でもトイレに非常用の灯りは不可欠です。

では、どんな灯りが良いのでしょうか?私たちは実際に電気が消えたトイレの中に懐中電灯、ヘッドライト、ランタンを持ち込んで、使い勝手を調査し、YouTubeで紹介しています。

YouTubeをご覧になれば実感していただけると思うのですが、トイレの照明として必要なのは、空間全体を照らせること、手元をふさがないことの2点です。これらを考えると、トイレの非常用照明としては、ランタンタイプを備えておくことが最も効果的です。懐中電灯しかない場合は、レジ袋をかぶせると光が散乱して空間全体を照らすことができます。


説明:実際にランタン(上)、ヘッドライト(下)をトイレ室内で照らした時の様子(日本トイレ研究所のYouTube【災害時、停電したときのトイレの灯りはどうする?】【オンライン日本トイレ研究所】より)

携帯トイレは必需品

大地震の後、見た目に問題がなかったとしても、排水管やその先の下水道、下水処理場、あるいは浄化槽に問題があれば水洗トイレは使えません。無理に汚水を流そうとすると、どこかからあふれ出ることになります。初動対応としては、携帯トイレという袋式のトイレを便器に取り付けて使うことをお勧めします。

自宅で避難をする可能性があるならば、携帯トイレは必ず備蓄しておくことが重要です。

携帯トイレの選び方

携帯トイレは大きく分けて、凝固剤を入れるタイプと吸収シートを入れるタイプがあります。どちらでもいいのですが、いきなりたくさん買うよりは、少量買って一度使ってみるのがよいのではないでしょうか。

私たちはボタンを押すだけで排泄物が流れていく、という便利な水洗トイレでの生活に慣れていますが、携帯トイレを使う場合は排泄をする前後でやるべき作業が増えます。基本的には家族一人ひとりが自分でやらなければなりません。

例えば、手先の細かい作業ができない家族がいる場合、凝固剤を破るのは難しいかもしれません。凝固剤を床にこぼしてしまうと、水分を吸って、床が掃除できなくなることもあります。

排泄が終わった後、袋を縛る必要があるのですが、能登半島地震では高齢の方が袋を縛れず、そのまま捨ててしまって中身が漏れ出すということも起きました。まずは、家族それぞれが試してみて、使いやすいものを選びましょう。

使いやすいものが絞れたら、吸収量やにおいについてもチェックしておきましょう。吸収量は、排泄物がしっかり吸収された上で、少し余裕があると感じるものが良いと思います。におい対策については、においの発生を抑える成分を含んでいるものや袋の性能でにおいが漏れるのを防ぐものなどいろいろな商品が出ていますので、実際に使って比べてみてください。

自分の排泄を知る

携帯トイレはどのくらい備蓄しておいたら良いでしょうか?

国の資料では、目安として1人1日5回、最低3日分、できれば7日分用意しておくことを推奨しています。

ただ、トイレに行く回数というのは人によって違い、個人差のあるものです。

日本トイレ研究所では、11月10日の「いいトイレの日」と11月19日に国連が定めた「世界トイレの日」の間を「トイレウィーク」とし、この期間に自分の排泄の状態やトイレの回数を意識するよう呼び掛けています。家族で話し合って、それぞれの1日の回数×7日間くらい備蓄しておきましょう。

そして毎年この時期に、全国の小中学校に「うんちチェック」をする活動を呼び掛けています。うんちチェックシート(=イラスト)を使って1週間分の排便の状況を記録していきます。「ブリストル便形状スケール」という医学的な分類を参考に作成したものです。

学校では栄養についてはいろいろ教えるのに、出すことはあまり教えていないと思います。便は身体の状況だけでなく、ストレスなど心の状況も影響します。最もわかりやすい「体からのお便り」なのです。自分の体の状況を自分で確認し、健康管理につなげる――そんな一生モノのスキルを身に着けてほしくて、この活動を続けています。


説明:日本トイレ研究所が作成した「うんちチェックシート」の一部。実際には1週間分の排便記録がつけられるようになっている。

日ごろから自分の排泄について知っていると、避難生活での体調の変化にも気づきやすくなります。排尿回数が極端に減ったことがわかれば、水分摂取に気を付けるようになりますし、便の形状が変われば食べ物に意識が向くようになります。日ごろの取り組みが、いざという時の備えにつながります。

加藤篤さん

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

1972年生まれ。まちづくりのシンクタンクを経て、現職。災害時のトイレ調査や防災トイレワークショップの実施、防災トイレ計画の作成、小学校のトイレ空間改善を展開。「災害時トイレ衛生管理講習会」を開催し、防災トイレアドバイザーの育成に取り組んでいる。

著書『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)(写真下)、『うんちはすごい!』(イーストプレス)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)ほか。


写真説明:加藤篤さん


説明:加藤さんの著書「トイレからはじめる防災ハンドブック」

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災害時のトイレ問題 どうする?排泄物処理と臭いの対処法

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