身近にあるものがきっかけに。近年増える薬物依存について聞こえた体験者の声。カウンセラーの視点からお話しします。

身近にあるものがきっかけに。近年増える薬物依存について聞こえた体験者の声。カウンセラーの視点からお話しします。

近年、市販薬による薬物依存が増加しているってご存知ですか?

薬物依存は遠い世界の出来事ではなく、意外とあなたのすぐ周囲にあるものなのです。

なぜ、薬に依存してしまうのか、そのきっかけは?

今回は、特定非営利活動法人たんぽぽの丘代表理事で、産業カウンセラーの野邑浩子さまにお話を伺いました。

薬局で売っている一般的な薬で?近年増えるオーバードーズとは

薬物依存と聞くと、麻薬や違法薬物など、現実感がないと感じられる方もいるかもしれませんが、実は誰にでも起こりうることなんです。

近年、若年層の間で増えているのが、市販薬の大量摂取(オーバードーズ:OD)です。

厚労省の調査によると、医師の処方薬や市販薬を含む医薬品の大量摂取が原因で救急搬送される人が年々増加しています。

ドラックストアなどで手軽に買える市販薬の大量摂取は、10代20代を中心に増加し問題視されています。

大量摂取することで、幻覚や興奮状態を引き起こし、考え事をしなくて済む、頭がぼーっとしてふわふわするなどの書き込みがSNSなどでも増えています。

「どこのメーカーのどんな薬をどれぐらい飲めばいいか」

「薬を飲んでどんな状態になれたか」

「おすすめは」

など、信じられないぐらいカジュアルにやり取りされています。

多数の「いいね」を受け拡散されている投稿もあり、厚労省のみならず、全国の保健機関や学校でも注意喚起が行われています。

今回は、市販薬を大量摂取してしまう10代から20代のクライエントさんの実体験をもとに、カウンセラーの立場で、薬物依存症の背景を探ってみたいと思います。

なぜODをしてしまうのか?カウンセラーとして見えてきたもの

埼玉県精神医療センターによると、若年層の薬の大量摂取には、「生きづらさ」「人間不信」「自己否定」が関わっていると示されています。

また、私のもとに訪れる薬物依存症のクライエントさんには共通して「自己防衛」が見られます。

決して快楽を得る手段として薬を求めているのではなく、薬に手を出すことで、自分を守り、嫌な事から逃げているとも捉えられます。

そのため、『やめたいけど、やめられない』状況にあるということです。

面白おかしくODをしているのではなく、クライエントさんの多くが悩み、苦しんでいます。

以下、私のクライエントさんの体験談をもとにまとめさせていただきました。

「生きづらさ」を解消するため薬に頼りがちに。20代女性のケースから見えるもの

カウンセリングを始めた当時26歳、カフェ店員として働くこの女性は、小学5年生の時に両親が離婚し不登校となりました。

第二次性徴の多感な時期に初潮のことを教えてもらうこともなく、性について誰にも相談できず大人になりました。

数名の男性とはお付き合いしましたが、自分の身体に対する違和感がぬぐえず、また男性を心から受け入れる事が出来ず、自分は女として失格ではないのかと悩んでいたようです。

現在もパートナーはいるのですが、人を好きになるという感覚が分からず、性行為への抵抗も激しいため、恋愛が出来ない自分を低く見てしまうようでした。

そんな時に友人から、『市販薬を大量摂取すると、頭がぼーっとしてなにも考えずに済むよ』と教えられ、初めて風邪薬と、咳止めを大量摂取します。

初めてのときは、頭がぼーっとはせずに、ひどい頭痛と、吐き気、胃痛で大変な状況だったようです。

その後、SNSの書き込みを見ながら、風邪薬、咳止め、睡眠導入剤などを試し、ある日、気を失います。

その時は、20時間以上眠っていたようで、目が覚めた時はひどい頭痛と吐き気があったようです。

それでも、20時間も眠ることができたということが、彼女の「生きづらさ」の解消につながり、定期的に大量摂取するようになってしまいました。

このようなケースは、彼女だけに限ったことではなく、近年は小学生の親御さんからの相談も増えています。

薬に頼る事で、生きづらさや孤独を紛らわせているのでしょう。

カウンセリングで話を聞くと、幼少期の話をされる方が多く、悲しい出来事よりも楽しい出来事の話をされます。

薬をやめるため、月に一度のカウンセリング開始

両親の離婚を経て、男性への不信感から性的なことに関する拒否感がうまれ、生きづらさを感じている彼女。

生きづらさや悩みを忘れるため、市販薬のオーバードーズがやめられなくなってしまいます。

薬から離れるため、26歳のときにカウンセリングに来てくれて、初めて話しをしました。

しばらくの間、彼女は、月に1度のカウンセリングにきちんと来てくれて、いろいろな話をするようになりました。

カウンセリングに通ってくれている間でも、薬の大量摂取してしまうことも。

その時には、彼女を責めず、メールで薬を飲んでしまった理由を聞くようにしていました。

「今日はたくさん飲んでしまいました。理由は、子どもの時の友達に言われたひとことを思い出して、つらくなったからです」

「どんなことを思い出してつらくなったの?」

「その友達は、私が、日に何回トイレに行ったかを数えて、今日は回数が多いと笑いました。嫌な気持ちでしたが、嫌と言うことができなくて。そんな日が続いて学校に行くのが嫌になったことを思い出しました」

「そんなことがあったんだね」

このように、大量摂取の理由を記したメールが届くたび、嫌だったことを一緒に共有し、時には一緒に泣いたりしながらも、彼女との時間を寄り添い見守っていきました。

彼女との間に信頼感が芽生え、カウンセリングは順調に進んでいるかと思われました。

ですが、半年過ぎたころから、徐々にメールが送られる回数が減っていき、ついにはカウンセリングにも来なくなってしまったのです。

カウンセリングに来なくなった彼女・・・その間に起こっていたこととは

こちらからのメールにも返信がなくなり、親御さんへ連絡すると、一人暮らしの家で引きこもっていると聞き、地域の民生委員さんに報告して、協力して彼女を見守り、様子をうかがっていました。

さらに半年後(出会ってから1年後)、連絡が再開されました。

しかしその時の彼女には薬を飲む仲間ができていて、毎週集まり、仲間同士で薬の大量摂取をしているという状態でした。

彼女に話を聞くと、

「何かを忘れたいや、辛いことがあったとかではなく、友達と一緒に居たいから、大量摂取している…でも、もう、こんな生活はやめたい」

とのこと。

私は、薬を断ち切るためにも、当時一人暮らしをしていた彼女の金銭面が心配だったので、彼女の現在の仕事について確認しました。

すると、今はパブのようなところで、週3日、夜に働いているとのことでした。

パブでの仕事は接客業でもあり、もともとカフェで働いていた彼女には合っていたのか、楽しいとのこと。

とくに身体の疲労や強いストレスなどは無いようでした。

ですが、薬の大量摂取をしてしまうと、その日は仕事に行けなくなってしまうので、当日欠勤をしてしまう。

そして当日欠勤をするとその店では罰金があり、結局働いても思うようにお金が得られず、少しずつ、生活も困窮しているようでした。

目標を見つけた彼女の再スタート

まず、私の方からは自助グループを紹介しました。

自助グループでは、同じ問題を抱える人たちが集まり、悩みを共有し合い、相互理解や支援をし合います。

ここでは自己開示を求められるので、なかなかそこについていけず、自助グループでの治療だけでは難しい状態でした。

「大好きなカフェで働きたい」

「パブではなく日中の仕事をしたい」

という彼女の要望を聞くために、自助グループの仲間たちと一緒にカフェでランチ営業をするところから始めました。

なるべく、薬の仲間には会わないように、生活リズムを変えていきました。

自助グループの仲間と、薬の仲間、二つのグループを行き来する中で、薬の仲間と手を切って、自分らしく生活しているという男性と彼女は出会い、惹かれたようです。

ただ、彼には妻子がいたので、残念ながら恋愛関係にはなることはできませんでしたが、自助グループの会合があるときは、一緒にワークをしたり、個人的な相談を聞いて貰ったり、力になって頂いたと聞いています。

大量摂取をする女性の多くが孤独を抱えているので、寄り添える男性やパートナーの力は大きいのです。

その後、薬の仲間から離れ、自助グループで知り合ったメンバー数名と、カフェをオープンさせることができました。

カウンセリングから3年・・・現在の彼女は薬を断てたの?

カフェがオープンして、3年が経ちました。

現在も、彼女はそこでカフェの店員として働いています。

ただ、彼女の薬の大量摂取はなくなったわけではなく、休日の前日などには、ご褒美的に飲んでしまうことがあるようです。

今まで、散々、頼ってきた薬ですので、ゼロにするのはなかなか難しいのかもしれません。

カウンセリングの中で、私は彼女が薬を飲んでしまうことを責めたりはしません。

彼女が、自分らしく、生きられるのであれば、そんなマイナスな部分も自分の一部として受け止め、一緒に生きていく。

人には、良い部分もあれば、悪い部分もある。

お酒に頼りたい人もいれば、たばこをやめられない人もいる。

完璧にクリーンじゃなくてもいい。

楽しいと思えられることのほうが大切だと実感しています。

今、薬を辞められないと思っている方へ。

すぐに薬を辞めようとしなくていいんです。

楽しく生きられること。

そんな日々が長続きすること。

そんな日々を送っていれば、気がついたときには、薬に頼らない日が来ているかもしれません。

1人きりで悩まないで。

話せる仲間、話せる相手を作ってください。

カウンセラーなど、プロにも頼ってくださいね。

[執筆者]

野邑 浩子(のむら ひろこ)

特定非営利活動法人たんぽぽの丘 代表理事

[プロフィール]

「誰もが自由で自立して夢を叶える社会の実現」をモットーに、障害福祉サービスと、コーチング事業の2社を経営。

介護福祉士

1児のシングルマザー

Instagram

@hiroko_1983.tanpopo

関連記事:

配信元

キレイ研究室
キレイ研究室
「今よりもっと、これからもずっときれいでいるために。」をコンセプトに、化粧品開発、ヘルスケア、ネイリストなどさまざまなジャンルの専門家が、中立の立場から「キレイ」についてのコラムを発信しています。
「今よりもっと、これからもずっときれいでいるために。」をコンセプトに、化粧品開発、ヘルスケア、ネイリストなどさまざまなジャンルの専門家が、中立の立場から「キレイ」についてのコラムを発信しています。