北海道江別市で大学生の男性が集団暴行を受けて死亡した事件で、逮捕された男女複数人が事件後に被害者のキャッシュカードで現金を引き出したことなどを供述したと報じられている。
報道によると、男性は交際相手の女性を含む男女6人から集団で暴行を受け、市内の公園で全裸状態で発見され、その後死亡が確認された。事件後、交際相手の女性を除く5人が札幌市内のATMに移動。現金を引き出そうとする姿が防犯カメラに記録されていたという。
死亡男性のカードが使用されたとみられ、HTB北海道ニュースによると、引き出した額は「十数万円」。男性を暴行中に、キャッシュカードの暗証番号を聞き出したとみられているという。
死亡事件としてクローズアップされていたが、「金銭目的」という要素が加わる可能性も出てきた。動機や経緯など事件の詳細は現時点不明だが、もし暴行を加える際に金銭なども奪おうと考えていた場合、暴行・傷害(致死傷)以外の罪に問われることになるのだろうか。また、死亡した後に奪おうとした場合はどうなのか。
刑事事件に詳しい清水俊弁護士に聞いた。
●報道が事実なら「強盗致死罪」の可能性が高い
──暴行前または暴行中に金銭等を奪おうと考えて、暴行を開始または暴行を継続し、死に至らしめた場合、何罪になるのでしょうか。
強盗致死罪が成立します。
強盗罪とは、暴行または脅迫を用いて被害者の反抗を抑圧して財物を奪取する犯罪です。暴行前に金銭を奪おうと考えている場合が強盗の典型ですが、暴行中に金銭を奪おうと考えた場合もその後の暴行は被害者の反抗の抑圧と財物奪取に向けられているため、強盗罪が成立し、そうした暴行等の結果、被害者を死に至らしめれば強盗致死罪となります。
──仮に被害者が死亡した後に金銭等を奪おうと考えて行動に移した場合も強盗致死罪になるのでしょうか。 強盗罪でいう「暴行・脅迫」はあくまで被害者の反抗抑圧とその後の財物奪取に向けられている必要があります。
怨恨など別目的の暴行等で被害者を死に至らしめた場合には、殺人罪や傷害致死罪が成立し、その後の財物奪取については窃盗罪あるいは占有離脱物横領罪が成立するに過ぎず、強盗致死罪は成立しません。
いずれの犯罪が成立するかについては、いわゆる「死者の占有」といわれる論点があります。
これは、死者には占有の意思などが認められないことから、被害者死亡後に物を奪取したとしても、窃盗罪の保護法益である占有を侵害したことにはならず、占有離脱物横領が成立するにとどまるのではないかという問題です。
判例は、被害者の「死亡直後」の奪取と評価できれば、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪の成立を認めています。ただ、その基準は明確とはいえず、判断が難しいところです。
──報道されているように、もし暴行中に暗証番号を聞き出し、死亡後にカードを奪ったという事実関係だった場合はどうなるのでしょうか。
そのような事実関係においては、一般的に「死者の占有」は問題にされず、端的に強盗致死罪が成立します。「暴行を用いて被害者の反抗を抑圧して財物を奪取した」と評価できるためです。
●強盗致死罪の法定刑は「死刑または無期懲役」
──強盗致死罪が成立した場合と傷害致死罪と窃盗罪(or占有離脱物横領罪)が成立した場合では、量刑ではどの程度の差があるのでしょうか。
強盗致死罪の法定刑は「死刑または無期懲役」と非常に重くなっています。 他方、仮に殺意のない傷害致死罪と窃盗罪が成立した場合、傷害致死罪の法定刑が「3年以上の有期懲役」(上限20年)、窃盗罪が「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」となり、併合罪処理後でも「3年以上の有期懲役」(上限30年)にしかなりません。
強盗致死罪でも情状酌量等により有期懲役となる可能性はありますが、法定刑だけを見てもかなり量刑が異なってきます。
【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/
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