道の駅でパンに塗るスプレッドが人気
人気バラエティ番組、『秘密のケンミンSHOW極』(日テレ系)でここ2~3年放送されている、「道の駅調査隊 パンのお供を探せ!!」というコーナーが気になっている。番組がどんなお供を見つけたのか、具体例を拾ってみよう。静岡の伝統食材の塩蔵カツオ「潮かつお」とパルジャミーノチーズ、バジル、シラス、クルミを和えた「多見里しらすのジェノベーゼ」、高知の唐辛子とニンニクを効かせた「パンにのせる宗田節ディップ」、北海道のクリームチーズにイカを漬けこんだ塩辛の「波乗りイカさん」。10月17日放送回では、神戸の「丹波黒豆きなこバタークリーム」を紹介。黒豆のきなこをバター、メレンゲと混ぜたスプレッドで、丹波の黒豆生産者に食べさせていた。こんな調子で、全国各地の道の駅で、愛されている地元食材を加工したスプレッド類を売っているらしい。味の想像がつかない食品が多いからか、食材の生産者に選んだお供をトーストに塗って食べさせ、「これは合う!」と言わせるのは毎度のお約束だ。
ほぼペーパードライバーになって30年の私は、道の駅にあまり縁がなく、テレビで紹介されるのを見るばかり。しかし全国の道の駅は今年8月7日時点で1221駅もあり、車移動をする人には身近な存在である。そんな場所に、ご当地感満載のパンのお供があるなんて。そんなことを言いつつ、子どもの頃から朝食にトーストを食べてきた私自身は、ジャムやはちみつを塗るばかりで、こうしたスプレッドを使う気になれない。料理は、世界各地の珍しいモノを喜んで食べに行くくせに、パンのお供に関しては保守的で、既存のジャムやバターに近いあんこジャムやミルクジャムすら、手を出せないのである。
頭の固い私を置き去りにして、パンのお供の世界はどんどん進化し、ご飯の供としか思えない食材までパンに塗れるようになっている。あんこジャムやミルクジャムの登場は、そうしたアレンジの始まりだったかもしれない。調べてみると、虎屋があんこジャムの「あんペースト」を発売したのは、2003年だった。
最近はバラエティがずいぶん増え、注目を集めている。「おとりよせネット」が毎年発表する「みんなで選ぶ ベストお取り寄せ大賞」では2017年から「パンのお供部門」が登場している。また、日本野菜ソムリエ協会が2023年から「パンのおとも選手権」を開催。最新の結果をお伝えすると、「ベストお取り寄せ大賞2023」のパンのお供部門金賞は「黒トリュフ入り十勝バター」で、「第2回 パンのおとも選手権」は、「とろっとうまみ 椎茸タプナード」だった。
変わり種のスプレッド、カルディが火付け役に
おもしろ食品といえば、カルディーコーヒーファームがある。しばしば食の流行の発信源にもなるこのチェーン店にも行ってみた。すると、パンのお供コーナーには、従来のジャムなどと異なる商品もずらり並んでいた。りんごバター、コーヒークリーム、クッキーナッツなど、ありそうでなかったお供もあれば、塗るだけでクイニーアマン風になる、いちごミルフィーユ、カレーパンやメロンパン風になるスプレッドまであった。
フレーバーつきバターと言える「黒トリュフ入り十勝バター」はまだ想像の範囲だが、その延長線上にカレーパンもどきなど、なんちゃって総菜パン・菓子パンが楽しめるカルディーコーヒーファームの商品群がある。パンのお供がなぜ進化したのかを考えるうえで、重要なのは「椎茸タプナード」や道の駅の商品群である。
総務省の家計調査で、パンの消費金額がコメを抜いたのは2011年。コメの消費量は1962年以降ずっと減り続けているが、いよいよパン食がご飯食よりメジャーになったのではないか、と思わせたのがこの結果だった。パンの消費は必ずしも主食用とは言えず、コメは贈答による市場外流通もあるので、パンを主食にする人が多数派になったとは言い切れないが、ご飯のお供やおかずの食材が、このままでは売れにくくなる、と現場の人たちが危機感を持つのは当然だろう。そこで開発されたのが、地方色豊かなパンのお供たち、と言える。
そうしたスプレッドが受け入れられるのは、例えばバゲットの上に刻んだトマトなどを載せるブルスケットといった外国料理のアレンジにも親しんだ人が増え、パンには何でも載せられる、と思うほど、日本人の発想が広がったからかもしれない。
昭和までは、ご飯の供、またはおかずとして愛されていた食材・食品が、今後はパンのお供や洋食に使うスプレッドになっていくのか。私たちの食文化の行く末は、より多彩で豊かな方向なのか、それともますます迷走して訳が分からない世界へ行ってしまうのか。私自身の日常はパンのお供はジャムとはちみつ、ご飯の供は漬物や佃煮、の保守路線を維持しそうだが、その食習慣がやがて昭和の化石となる日は近い⁉
配信: クックパッドニュース