●解禁付きで報道各社も省力化?
こうした状況が生まれる背景について、前出の記者は推測を交えながら次のように説明する。
「当局側が解禁日時を設定する理屈として想定できるのは、例えば『再逮捕へ』という前打ち記事を記者が好きな時に書いていいよとなったら、各社どんどんタイミングを早めて報じるようになる。そうすると、被疑者の代理人弁護士から苦情が入るなど当局にとって嫌なことが生じる。
なので、各社とも把握している可能性が高い話であれば、『何時に合わせて』と言われても、各社もそこで争わなくてもいいという思いがあるので当局の要求を飲むことが常態化しているのではないか」
警視庁を担当する記者たちは事件現場や周辺の聞き込み、事件や捜査に関係する人の自宅や通勤路への突撃など、早朝から深夜まで取材にかけずり回っており、マスコミの中でも特に激務の担当だ。
そうした仕事柄、「再逮捕へ」などといったある程度事前に予測される手続き上の捜査当局の動きを前打ち報道することにはあまり価値が置かれず、それ以上の他社が把握していない情報を求めて日々激しい競争をしているという。
また、事件の細かい話を追う中で捜査の問題点が見えてくることもあるため、そうした警察取材の競争が悪いとは一概に言えないと話す記者もいた。
●当局から記者への「有形無形の圧力」
一方で、一般の読者や視聴者からすると、各社とも把握している情報だからといって捜査当局による報道解禁指定の要求に従うことが報道機関の中で半ば当たり前のことになっているとすれば、「馴れ合い」という疑問も浮かんでくる。
記者からは次のような話も聞かれた。
「警視庁は日本の警察で一番大きな組織なので、不祥事の数も一番多いはず。それがあまり出てこないというのは当局にグリップされているということだと思う。警視庁担当は各社間の争いがし烈なゆえに警視庁に情報をグリップされてしまっている。いくつかの都道府県で警察取材を担当したことがあるが、警視庁は群を抜いてグリップされている」
この記者によると、ある時に書いた記事が警視庁幹部の機嫌を損ねたようで、「しばらく個別取材を受けない」と言われたことがあるという。
今も続いているかは不明だが、警視庁の捜査1課では課長が毎日、各社の個別取材に応じる時間があったといい、各社の記者は独自取材で得た情報の裏付けをその場で取ろうとすることもあったという。
個別取材を受けてもらえなくなると、他社が報じたニュースの裏付けをすぐに取ることが難しくなるなど、日々の事件報道の継続に支障が出ることになる。
警視庁はメディア同士の競争原理を理解した上で、各社の記者に対してこうした手法を日常的に使い分けて情報管理を行っているようだ。この記者はそれを「有形無形の圧力」と表現する。
配信: 弁護士ドットコム