●もしかしたら、息子は男の子が好き?
「息子は、親の私が言うのもなんですが、かなり顔立ちが整ったイケメンです。小さい頃から賢く、私の手を煩わせたことはほとんどない。運動神経も抜群で、運動会ではリレーの選手として大活躍。サッカースクールでは、いささか闘争心には欠けるものの、チームを引っ張るプレイを見せるほどで、ハッキリ言って自慢の息子です。小学校では、毎回学級委員長を任され、周りのママにも『息子さんはマンガの世界から出てきたみたいな子だね』と言われていました」(Aさん 以下同)
幼稚園の頃から気になる兆候はあったものの、Aさんは、それを姉の影響だと思っていたそう。
「幼少期から男の子のお友だちにベタベタしたり、『僕、〇〇くんのこと結婚したいくらい好きなんだ』と無邪気に打ち明けることがあって…。髪を伸ばしたいということもありましたし、ある日幼稚園にお迎えに行くと、女の子から借りたカチューシャを頭にしていたこともあったんです。“ひょっとしてこの子…”という気持ちが芽生える一方、“お姉ちゃんの影響だよね、きっと…”と思い込むようにしていたことも事実です」
幼稚園の頃こそ、無邪気に自分の素直な気持ちを打ち明けていた息子さんだが、小学校高学年に入ると、次第に男らしさが感じられるように。だが、髪を短髪にすることだけは徹底して嫌がり、中学生になったある日、こんな兆候に気づかされたという。
「気がついたら足のすね毛もわき毛も、すべて剃ってしまっていました。これには困って夫にも相談しましたが、“恥ずかしくて剃っただけだから気にしなくていい”と取り合ってもくれませんでした」
●思春期の息子に“男の子が好きなの?”と問いただす勇気もなく…
そんななか、中学1年生の保護者会で、同じクラスのママからこんな事実を打ち明けられたという。
「“うちの息子、あなたの息子さんに毎日キスされているのよ”と言われたんですね。同級生の息子の友人は、ポチャポチャしていて顔立ちもかわいらしく、まだまだ幼さが残る感じで、息子からもよく彼の名前を聞いていました。修学旅行も遠足も運動会も、たしかにいつも一緒に写真に映っていましたが、まさかそんなことをしているとは思わずに、私はひたすら謝ったのですが、そのママは寛大で“えーっ、何で謝るの? 息子さんにそこまで思われるなんて、うちの子は幸せ者だよ~”と笑顔で返されました。私のなかでいつも息子に対して抱えていた不安が、一気に爆発した…そんな気持ちを感じた瞬間でした」
今年の春に行われた中2の運動会では、他のクラスに離れ離れになってしまった友人と腕を絡ませるようにして歩いていたという。
「親として、息子の個性を認めたい気持ちはありますが、実際問題として、日常生活に支障が出ているわけでもありませんし、思春期に入った彼に“男の子が好きなの?”と問いただす勇気も、まだ私のなかにはありません。本人も特に困ったことはないようなので静観しています。ただ時折、“女子は気が強くて嫌だ。表と裏の顔が違い過ぎる。僕は本当に男に生まれて良かった…”などということもあるので、“この子はグレーなのかな?”とも思います。心配しすぎなのでしょうか?」
この実録について、村上氏からアドバイスをもらった。
「まず、Aさんへのアドバイスは、相談できる人を作ること。相談する際は、私のようなプロや、個人が絶対に特定されない相手であることが原則です。息子さんにとって身近な人に相談してしまうと、相談された相手が悪く思わなくても、情報が伝達されてしまい、息子さんを知らない人たちがバッシングする可能性もあります。人選は慎重に行いましょう。特に閉鎖空間で起きるバッシングは、人が死んでしまう恐れもあります。とにかく、息子さんの安全を脅かさないことが絶対条件です」(村上氏 以下同)。
Aさんの心理からは、あることが読み取れると語る村上氏。
「おそらくAさんご自身も気づいていないとは思いますが、“息子さんの個性が恐ろしいもの、普通ではないもの”という偏見が伺えます。この偏見を拭い去ることで心がラクになると思いますし、息子さんはしっかりと交友関係が築け、人を好きな気持ちや親近感を積極的に表現できる素敵な子。この文章だけでLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった表現)かどうかはもちろん判断しかねますが、そのことと息子さんが幸せになれるかどうかは別問題であり、“いつかいじめにつながるのでは?”というママの心配を、セクシュアリティの問題にすり換えてしまっているだけなのかなと感じます。セクシュアリティと幸せは決してイコールではないので大丈夫。ご安心ください、息子さんは自分の力で幸せになれる子ですよ」
親は「暴かない、わかったふりをしない、焦らない」ことが重要だと語る村上氏。LGBTは細分化される非常に難しい問題であり、親が理解しようと思っても、そう簡単に理解できるものではない。そこには歳月をかけて、少しずつ知識を深める必要があり、親がわかったふりをすることはとても危険だという。気になる兆候が見られたら、まずは専門家へ。そして、セクシュアリティと子どもが幸せな人生を送れるかどうかは、まったくの別問題であることを、親はきちんと知っておこう。
(取材・文/吉富慶子)