●親子関係は疎遠に、当事者が社会に出られなくなる可能性も
ここ2、3年で「LGBT」が受け入れられやすくなったものの、「生きづらい人たちや差別を受けている人たちは、今もまだ多く存在する」と語る村上氏。親が子のセクシュアルマイノリティ(性的少数派)を認めないことで、こんな弊害が起きるという。
「LGBTにおいても親子の関係においても、それぞれ様々なケースが考えられるので、語弊は出てしまいますが、もしも親が子のセクシュアリティを認めない場合、親子関係は疎遠になってしまうことが考えられますね。とはいえ、LGBTのカミングアウトは、本当に繊細な課題であり、親があっさり受け入れすぎても、それはそれで本人は不安になります。“どうでもいいの? 流された? ちゃんと聞いてくれている?”と不安になり、”自分のカミングアウトが軽く扱われてしまったのかな?”と感じてしまうこともあります。本人が自分のセクシュアリティについて何十年も悩んでいた場合は特にそうで、親子間の受け取り方のギャップも、それはそれで疎遠になる原因となることがあります」(村上氏 以下同)
親が受容しない場合、社会的にはこんな弊害が予測される。
「本人が社会のなか生きていくことが難しくなる可能性があります。社会は人と人との関わりで形作られています。発達心理学において、親との関わりは、子どもにとって人との関わり方のベースになります。基本的に、他人は親より心理的な距離が遠いもの。親に生まれ持った性質を受容されなければ、他人への不安や恐怖が大きくなっていきます。人と関わることが怖い、自己評価が下がる、仕事が怖くなる、無理をして体を壊す、人に好かれるために自己犠牲を払うなど、コミュニケーションが不健全になり、職場や学校、友人関係のなかで孤立してしまうことが考えられます」
●大切なのは、みんなが「LGBT」について勉強すること
それでは、親はどう対応することが理想的なのだろうか。
「物事は、触れてみての発見と解釈を繰り返し、初めて“理解”へとつながっていきます。少しずつ理解を深めていくためには、とにかく親子で会話すること。コミュニケーションを取ることが大切です」
かつて、ドラマ『3年B組金八先生』で、上戸彩さんが性同一性障害の中学生を演じたことが大きな話題に。村上氏は、「このドラマを機に、社会の受容態勢が加速した」と語るが、現実問題として、中学生や高校生で自分のセクシュアリティに気づいている子どもは存在する。子どもがLGBTであることで、いじめに直結しないか心配する親もいると思うが…。
「それぞれ取り巻く環境や個性が違うので、一重にこうすることがベストだとは言い難いのですが、いじめへと向かわせないためにも、チャンスがあれば、子育てをしている地域の皆さんが、一緒に勉強する機会を作ることは有効だと思います。保護者会や一日家庭学級のようなイベントにプロを呼び、先生方も一緒にみんなで勉強をする。そして、親が勉強したことを各家庭で子どもたちに伝えて話す。これによって、LGBT当事者であることを親にカミングアウトできないお子様方も家庭に居場所ができますし、当事者ではないお子様方も、将来的に出会うLGBTの人たちと良好な関係が築けますよね。これは、先生にとっても生徒にとっても保護者にとっても…誰にとってもいいことなんですよ。みんなで勉強すれば、みんなが楽になります」
だがその際、気をつけることがあるという。
「そう簡単に理解できることではないので、わかったふりをしないことが重要なんですね。まずは”ちゃんと知ろうとしてくれているんだ”という安心感につながれば、最初は十分なので…。“親が知っておくと、子どものためになるよ”という感じで周りを巻きこんで勉強するのはいいと思いますが、“うちの子がこうだから、みんなで勉強しませんか?”は大変危険です。それこそ、LGBTの子どもの安全性に関係し、命にまで関わることになりかねません」
村上氏が言うように、いじめやLGBT…親が様々な問題に直面した時、守らなければならないのは、何より子どもたちの安全、そして命だ。先生や親、地域の人々も、何につけてもそこが要であることを、決して忘れてはならない。
(取材・文/吉富慶子)