救いようのない最低夫を演じてしまえる40歳俳優の圧倒的“ふり幅”。フジ新ドラマが示したのは

救いようのない最低夫を演じてしまえる40歳俳優の圧倒的“ふり幅”。フジ新ドラマが示したのは

「明日があるさ」的な俳優

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 作品間の垣根をこえて、ぼくらが田中圭を語るとき、こうした微細な類似がたくさん見つかる。ある種、隠れミッキー的な側面がある。その類似の読解は人それぞれではあるけど、物語レベルをこえて類似を見つける豊かな楽しみを与えてくれる人なのである。

 今まで一番驚いた類似のキーワードは、「Tomorrow」。2018年公開、ジョン・ウー監督の『マンハント』に出演した田中は、苦悩する研究者・北川正樹役を少ない回想場面の中で演じた。ラストに「A Better Tomorrow」という重要なセリフが用意されている(これはウー監督の代表作である『男たちの挽歌』(1986年)の英語タイトルへのセルフオマージュ)。

 あぁ、そうかと筆者は膝をうった。実際にセリフを言ったのは主演の福山雅治だが、このセリフが意味する「明日があるさ」とは、俳優としての田中圭の特性を端的に言い当てたものなのだなと勝手に理解した。あるいは、田中初の冠番組『田中圭の俳優ホン打ち』(フジテレビ)で彼がオーナー兼店長を演じた店名が「Tomorrow」だった。

 彼はキャリアを通じて「明日があるさ」的な役割を担ってきたところがある。硬柔問わず、どんな作品どんな役柄の田中圭もいつも見る者を前向きにさせてくれる。はるたん役はその典型だった。とすると、毎日妻を叱責してばかりいる陰湿夫である宏樹役にも実は「明日があるさ」的なものがあるんじゃないか。

ありきたりな演技をやらなかった“ある場面”

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 第1話ラストで美羽から妊娠を告げられ、自分の子ではないとは知らない宏樹だが、第2話冒頭、「お疲れ様でした」とぼそりつぶやいて、ひとりでオフィスに残る場面がある。

 上司と部下にはさまれ、彼の心は悲鳴をあげている。時計を2度見る。視線をそらすタイミングが完璧だ。激務のストレスから深いため息でもつくのかと思ったら、田中圭がそんなありきたりな演技はやらない。

 ため息寸前のところでぱっと机上を整理する。この短いワンシーンでの田中の控えめでいてつややかな演技には心動かされる。「あなたの子よ」と美羽からいわれた一言を思い出す宏樹の虚(うつろ)な表情がビルの窓ガラスに映る。なかば憐れみだが、宏樹にもそりゃ明日はあるよなぁと。本作の田中圭は、とても複雑な「明日があるさ」を表現している。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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