離婚において、財産分与の割合をどのように決定すればよいのでしょうか。財産分与についての話が進まないと、離婚手続きも難航し、対処に困ることもあります。
離婚における財産分与の割合は、一般的な原則と特別な例外が存在し、自分がどのケースに該当するかを把握することが重要です。
この記事では、財産分与の割合に関する以下のポイントについて詳しく説明します。
財産分与の割合の一般的な原則
財産分与の割合の特別なケースとは
財産分与の割合を決定する方法と注意点
また、財産分与の割合を最大化するための方法についても解説します。
この記事が、財産分与に関する問題で困惑している方々の手助けとなれば幸いです。
また、財産分与全般についてお知りになりたい方はは以下の記事を併せてご参照ください。
さらに、退職金も財産分与の対象になるか?についてYouTubeでも紹介しているのでこちらも併せてご参照ください。
1、財産分与の割合は基本的に2分の1ずつが原則
離婚するときに財産分与を請求できることは知っていても、いったいどのような割合で財産を分ければ良いのかがわからない方も多いことでしょう
基本的には、夫婦共有財産を2分の1ずつ分け合うことになります。たとえ妻が専業主婦であっても、2分の1ずつが基本です。
この点は意外に感じる方も多いと思いますので、まずはその理由についてご説明します。
(1)財産を2分の1ずつに分けるべき理由
財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いてきた財産を清算するために分け合うことをいいます。
通常、夫婦はそれぞれが様々な形で財産の形成・維持に貢献しています。
それぞれの貢献度に応じて財産を分け合うというのが、財産分与の基本的な考え方です。
以前には、一般的に夫の方が財産形成・維持における貢献度が高いと考えられ、妻は少しの財産しか受け取れないという傾向もありました。
しかし、現在は家庭裁判所でも財産の形成・維持についての貢献度は、夫も妻も同程度と考えられており、原則として2分の1ずつの財産分与を認めています。
家庭裁判所におけるこの運用のことを、財産分与における「2分の1ルール」と呼びます。
(2)専業主婦も2分の1の財産をもらえる
妻が専業主婦で収入を得ていなくても、2分の1ルールは適用されます。妻が家庭で家事や子育てを行うからこそ、夫は外で働いて収入を得られるからです。
妻が行う「家事労働」にも財産的価値があり、夫が会社などで行う労働と同等の価値であると、現在では考えられています。専業主婦も、夫婦共有財産の形成・維持に夫と対等の貢献をしているといえるのです。
以上が、財産分与で専業主婦も2分の1の財産をもらえる理由です。
2分の1ルールを正しく理解しておかなければ、財産分与を請求する妻は損してしまう可能性がありますので、ご注意ください。
2、財産分与の割合が2分の1ずつにならないケース
財産分与の割合は、夫婦共有財産の形成・維持に対する貢献度に応じて決めるべきものです。
そのため、明らかに貢献度に偏りがある場合には、2分の1ルールが修正されます。
夫婦間で財産形成の貢献度に偏りがある場合、財産分与の割合は2分の1ずつにはならず、貢献度の高い方が多くの財産を取得します。
2分の1ルールが修正されるのは、以下のようなケースです。
(1)一方の特別な才能によって財産が築かれた場合
夫婦の一方が芸能人やスポーツ選手などの場合で、その特別な才能によって高収入を得て多額の財産が築かれたと考えられる場合には、2分の1ルールが修正されます。
裁判例では、以下のように夫に多くの財産分与割合を認めた事例があります。
夫が一部上場企業の社長であったケースで、夫95%:妻5%としたもの(東京地裁平成15年9月26日判決)
夫が医師として医療法人を経営していたケースで、夫60%:妻40%としたもの(大阪高裁平成26年3月13日判決)
ただ、夫が経営者や医師・弁護士であっても、本当にその特別な才能によって財産が築かれたといえるのかについては慎重に判断する必要があります。
妻も資格はないものの共同経営者として事業に貢献していたり、そこまでではなくても重要な権限を有していたりするような場合には、財産の形成・維持に対する貢献度は夫婦で同等とすべき場合も多いと考えられます。
(2)一方の特有財産が財産に含まれている場合
特有財産とは、夫婦の協力とは無関係に、一方が取得した財産のことをいいます。
財産分与は、夫婦が協力して築いた財産を分け合うものですから、共有財産は財産分与の対象となりません。例えば、夫婦の一方が結婚前から持っていた財産や、結婚後に取得した財産でも相続や贈与によって取得したものは、特有財産です。
結婚後に築かれた財産でも、元手に一方の特有財産が含まれている場合があります。その場合は財産分与の対象になりますが、2分の1ルールが修正されるため、注意が必要です。
例えば、以下のような場合には、財産分与の際に、元手となった特有財産に相当する金額を差し引くことになります。
マイホームを購入する際に、夫が結婚前から持っていた貯金を代金支払の一部に充てた場合
夫が結婚前から持っていた貯金を株式の購入代金の一部に充てて、その株式を運用して利益を得た場合
(3)一方が浪費していた場合
夫婦の一方が著しい浪費をしたために、夫婦共有財産が増えなかったり、減ったりした場合にも、2分の1ルールが修正されることがあります。
何にいくら使ったら、浪費として2分の1ルールが修正されるのかについても、明確な基準があるわけではありません。浪費が顕著な場合に限って、2分の1ルールは修正されます。
裁判例では、約1億7,000万円相当の夫婦共有財産があったものの、夫に浪費傾向が認められた事例で、財産分与の割合を夫30%:妻70%と判断したものがありました(水戸家庭裁判所平成28年3月判決)。
この事例では、夫が浪費をして約580万円の借金を抱えていたのに対して、妻は倹約に努めて財産を築いていたことが認められています。
他にも、共働きであったのに妻の方が家事労働の負担が大きく、妻の母親からの金銭面での援助や相続もあったことなども考慮されて、2分の1ルールが修正されました。
多少の浪費があったというだけでは、2分の1ルールを修正することは難しいでしょう。
世帯年収との関係などについても、考慮する必要があります。
例えば、夫がギャンブルに年間100万円を費やしたとしても、世帯年収が数百万円程度なら浪費にあたる可能性が高いでしょう。
一方、世帯年収が1,000万円を超えるなら、2分の1ルールを修正するほどの浪費にはあたらない可能性もあります。
(4)夫婦財産契約を結んでいる場合
夫婦財産契約とは、結婚前に夫婦間で財産関係をどのようにするかを、契約で決めておくことをいいます。
夫婦の話し合いによって、自由に財産分与の割合を決めることができます。
夫婦財産契約で決めていた場合は、2分の1ルールよりも契約の方が優先して適用されるのです。
裁判例では、夫婦財産契約で決めた財産分与割合があまりにも不合理な場合は、公序良俗に反するものとして、無効とされた事例もあります。
また、協議離婚の場合の財産分与割合が契約で決められていても、裁判離婚する場合にはその割合を適用すべきでないとした事例もありました。
夫婦財産契約で財産分与割合を決めていたとしても、必ずしもその割合がストレートに適用されるとは限らないのです。
(5)財産分与に別の要素を加味する場合
ここまで、財産分与が夫婦共有財産を「清算」するものであることを前提に、ご説明してきました。
しかし、次の二つの場合のように、財産分与を行う際には、「清算」の他に慰謝料や扶養の要素を加味して割合が決められることもあります。
①慰謝料的財産分与
一つは、「慰謝料的財産分与」です。
離婚に至った原因について、夫婦の一方に非があるものの慰謝料が発生するほど重い責任ではない場合には、財産分与において慰謝料的要素が加味されます。
②扶養的財産分与
二つめは、「扶養的財産分与」です。
妻が長年専業主婦として生活してきたため、離婚してもすぐに自立して生活することが難しいような場合には、当面の生活費相当額が財産分与に加味されることもあります。
以上の場合は、2分の1ルールが修正されることになります。
慰謝料的財産分与と扶養的財産分与について詳しくは、以下の記事をご参照ください。
配信: LEGAL MALL