最近の「光る君へ」を観ていると、「芯」というものがとても大事なのだな、ということを実感する。
揺るがないものを持つ人はどっしりと構え、信頼感を増していく。が、芯がなければ、言動がブレ、周りから人が離れていく。ブレてしまうのも人間らしい。実のところ、この物語で一番揺れ動いているのは道長なのかもしれない。
道長を生かす、まひろの約束
三条天皇(木村達成)と覇権争いを繰り広げている道長(柄本佑)。いろいろありつつも、一条天皇はまだ道長の話を聞こうとする姿勢があった。が、三条天皇はギラギラだ。「おまえの言うとおりにはしないぞ!」という意気込みが伝わってくる。もちろん、道長も負けてはいないのだが、そんな中で体調を崩し、臥せってしまう。
さらにその隙を見計らったかのように、内裏には怪文書が出回る。道長の病を喜んでいる者がいると、その者たちの名前が書かれていたのだ。
多くの者は戸惑いながらも、身に覚えのないこと、として弁解したりはしなかった。が、このことが耳に入れば誰だっていい気はしない。ましてや、床に臥せっている状況でネガティブな話を聞けば、回復するものも回復しなくなる。
道長の気迫のようなものが少しずつ薄れていく。それを演技で現してしまうのだから、柄本佑は改めてすごい。
とはいえ、道長はまだまだ死ねない。
道長の命を救うべく、従者の百舌彦(本多力)が為時(岸谷五朗)の邸を訪れた。まひろ(吉高由里子)に会うためだ。
「道長に生きる力を与えられる人はまひろだけ」
ずっと道長のそばにいた百舌彦だからこその判断だろう。そして、まひろもその役割は自分にしかできないと思っているはず。
明子も倫子もいるというのにそちらの立場としては切ない話である。
……つくづく、現代版にしたらとんでもない物語になるだろう。時が平安でよかった。
まひろと会った道長は死を覚悟していた。誰のことも信じられない、信じられるのはまひろとの約束だけ。
まひろは自分との約束など忘れてくれ、というが、道長にとってそれが生きる道しるべ。約束を忘れれば、自分の命も終わると言う。
その言葉を聞いてまひろは迷いなく「ならば、私も一緒に参ります」と答える。
夫婦になれなくても、共に逝くのだとしたら、それはそれでひとつの愛か、と一瞬、思ってしまう。
しかし、道長は「俺より先に死ぬな」と言う。そしてまひろは当然こう返す「ならば、道長さまも生きてくださいませ」
道長が生きるために必要だったのは、まひろとの約束なのだ。
目指す世を改めて問い直す
回復した道長は、臥せる前と変わらず、仕事に取り組む。これまでよりも苛烈かもしれない。
自分の孫を帝に就かせることを諦めてはいない。
そんな道長の背中を押すかのように、運が味方をする。内裏ではたびたび火事が起こる。これを道長は三条天皇の政に対する天の怒りだと言い、譲位を迫る。もちろん、三条天皇は頷かないが、実は次第に目と耳が悪くなっていた。道長らが言ったことを聞き返す、文も逆にして見ていたり。道長にとっては好都合と言えるだろう。
もちろん、そんな道長の行動をよしとしない者もいる。彰子(見上愛)も眉をひそめる。実資(秋山竜次)にも譲位を迫っていることを諫められる。
道長が目指すのは「民が幸せに暮らせる世を作ること」と言うが、実資は「幸せなどという曖昧なものを追い求めるのが私たちの仕事ではありませぬ」とぴしゃり。
確かに、実資の言うとおりで……。幸せは人によってさまざまで、権力者が「これが民の幸せ」と決めつけるのも乱暴だ。と、なると、道長の目指していたものは?
道長が目指す世、というのは結局のところはまひろと道長の心の中だけにある桃源郷なのかもしれない。
配信: 女子SPA!