コーヒーで旅する日本/九州編|流行にとらわれず、コツコツと積み上げた土台に根を張って。「A little COFFEE」は今日も真摯に

コーヒーで旅する日本/九州編|流行にとらわれず、コツコツと積み上げた土台に根を張って。「A little COFFEE」は今日も真摯に

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

カフェラテ(570円)。中煎りの豆を使用し、フレーバーもしっかり感じられる

九州編の第105回は福岡市鳥飼にある「A little COFFEE」。店名や住所で検索すると地図アプリが示すのは大濠公園から西新方面に抜ける城南線沿いだが、歩いてみてもそれらしい店はない。ただ目を凝らすとマンションの路地奥に白い外壁、大きなガラス窓が見えた。ここが「A little COFFEE」だ。

店があるのは鳥飼2丁目交差点のファミリーマートの近く

店の中にはパリッとしたシャツにネクタイ姿でカウンター内に立つ男性。今では少なくなったが、昔の喫茶店やイタリアンバールではバリスタはこのファッションが正統なスタイル。そんなオーセンティックなバリスタ像を大切にする店主の牛島裕太さんが考えるコーヒーの在り方、ポリシーを聞いていきたい。

【写真】オーナーバリスタの牛島裕太さん

Profile|牛島裕太(うしじま・ゆうた)さん
福岡市出身。学生時代からカフェ巡りが趣味で、大学卒業後、一般企業に入社するも、バリスタへの憧れを捨てきれず、コーヒーの道へ。2014年にREC COFFEEに入り、研鑽を積む。2016年のジャパン バリスタ チャンピオンシップでは全国大会のセミファイナリスト16名にも選出。薬院店の店長などを経て、2019年にREC COFFEEを卒業。イタリアンレストランで料理人として腕を磨いてきた奥さんと一緒に自分たちの店を開くべく準備を進め、2022年7月に「A little COFFEE」をオープン。

■少しの幸せを届ける場所でありたい

REC COFFEE出身だけあり、エスプレッソの抽出技術は高い

「A little COFFEE」のオーナーバリスタの牛島裕太さんは福岡が全国に誇るコーヒーショップ、REC COFFEE出身。ジャパン バリスタ チャンピオンシップ2連覇、2016年のワールド バリスタ チャンピオンシップで世界2位と日本を代表するバリスタとして知られる岩瀬由和氏らのもとでコーヒーの知識、技術を2014年〜2019年の約5年にわたり磨いてきた。その経歴を聞いて感じるのが、牛島さんがまっすぐにコーヒーと向き合いたいという思いを強く持っているということ。

カフェラテはやカプチーノ(540円)は定番人気

2014年というと、岩瀬氏がジャパン バリスタ チャンピオンシップで初めて日本一に輝いた年。そのころ、REC COFFEEはまさに過渡期だったはずだし、今日に続くコーヒーに対する真摯な姿勢が着々と築き上げられていたであろう時期。もちろん現場で働く人たちのモチベーションは相当に高いし、牛島さんはあえて厳しい環境に身を置いたのだと率直に感じた。それだけ真面目にコーヒーと向き合い続けてきた牛島さんは自身の店「A little COFFEE」にどんな思いを込め、表現しようと考えたのか。

話しぶりからも牛島さんの真面目さ、実直さが伝わる

「A little…ちょっとした時間をコーヒーで豊かにしたい。屋号に込めたのはそんな思いです。その考えから特別過ぎても、日常からかけ離れ過ぎてもよくないと私は考えていて。なんとなくいつ来てもいつものおいしいコーヒーが飲めて、昼時ならランチにパスタを食べるという選択肢があって、おやつの時間ならスイーツとコーヒーを一緒に楽しむのもいい。そんな、いつ、どんなシーンでも使い勝手のいいお店にしたいねと、妻と相談しながら店を開業しました」と牛島さん。
聞けば、奥さんは福岡、東京、さらには本場イタリアでも料理人として腕を磨いてきたそうで、ゆえに週替りのパスタはコーヒーが柱の店とは思えないほどのクオリティと評判だ。
■ひたむきさが伝わるコーヒー

シングルオリジンは時期によって少しずつ変わるが、ブレンドは通年同じ

店で使用しているコーヒー豆はREC COFFEEから仕入れており、シングルオリジン3種、ブレンド2種を常時用意。さらに時期によってはプレミアムな豆がラインナップに加わることもある。中でもバリスタである牛島さんが日常的に飲むのに適した味わいと考えるのが、オリジナルのTORIKAI BLEND。2024年11月現在は、ブラジル・コロンビア・ニカラグアをブレンドした中煎りで、酸味、甘さ、ボディ感、苦味のバランスが絶妙。香りはローストしたアーモンド、味わいはチョコレートやビターキャラメルを思わせる甘さ、さらにマンダリンオレンジのような酸も感じる。まさに幅広いコーヒーラバーに好まれる一杯だ。

きれいな酸を表現するために円錐形ドリッパーを使用

「お客さまがイメージしているコーヒーと、私が考えるデイリーで飲むのに理想のコーヒーの距離感を詰める立ち位置のブレンドです。それぐらい普遍的な味わいのコーヒーとなるよう抽出する際も意識しています」と説明する牛島さん。

ブラックコーヒー(550円〜)と相性が良いチーズケーキ(480円)。スイーツは奥さんが手作り

ハウスブレンドがその店の名刺代わりになるコーヒーと考えると、やはり「A little COFFEE」のスタイルは正統派。牛島さんのこのような何気ない考え方を聞いて感じるのが、朴訥としているからこそ、しっかりと芯が一本通ったコーヒーショップであるということ。昨今、新しくオープンする店はSNS映えなどを意識したところが多いなか、しっかり地に足が着いた安心感。これが個人的に「A little COFFEE」に抱いた印象だ。こういうカフェが暮らしのそばにあるだけで、きっと日々が豊かになるだろう。

■飾らず、素の自分で表現し続ける

バリスタ歴は2024年でおよそ10年

牛島さんは2016年のジャパン バリスタ チャンピオンシップでセミファイナリスト16名の一人に選ばれた実績から分かるように、抽出に関して確かな技術、知識を有している。ハンドドリップ、エスプレッソマシンともに淹れ方一つで味わいは大きく変わることを考えると、バリスタとして積んできた経験があるのは大きなアドバンテージ。ただ牛島さんがコーヒーを淹れる際、気をつけているのは自分の色を出さないこと、コーヒーに余計な要素を加えないことだという。

店舗も非常にシンプル。テーブル席のほか、ベンチもある

「REC COFFEE時代から言われ続けてきたことの一つが、豆の個性を素直に引き出す抽出です。その理由に、豆自体のクオリティが高いスペシャルティコーヒーだからというのが根底にありますが、やはり余計な味わいを加えることなく、雑味を極力出さないよう淹れると素直においしい」
なんでもそうだが、何かを付け加えていくより、要素を削り、ブラッシュアップしていくほうが難しいもの。そういった基本の考え方、バリスタとしての土台を大切に日々コーヒーと向き合う牛島さん。ぜひ、そのスタンスも含めて、「A little COFFEE」で自分なりの心地よい時間を過ごしてほしい。

ランチは12:00〜14:00(LO)に提供

■牛島さんレコメンドのコーヒーショップは「CARVELL」
「もともとREC COFFEEで一緒に働いていた砂田さんがオープンさせた『CARVELL』。古着屋に併設する一風変わったスタイルのコーヒーショップですが、より幅広い人にコーヒーを飲んでもらうという意味では理想的だと思っています。ファッション×コーヒーという砂田さんならではのスタイルで、今後注目を集めていきそうです」(牛島さん)

【A little COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/エスプレッソマシン(Victoria Arduino Eagle One PRIMA)、ハンドドリップ(HARIO V60)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム1200円〜

取材・文=諫山力(knot)
撮影=坂元俊満(To.Do:Photo)

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