闇バイトをめぐる事件では、「高額報酬」「ホワイト案件」「リスクなし」といった文言でひきつけられた若者らが、実行役として強盗殺人や特殊詐欺などの犯罪に関与してしまう。
「さすがに『ホワイト案件』なんて言葉が出てきたら、いかにも怪しすぎると感じる。本当に騙される人がいるのか」と感じてしまう人でも注意は必要だ。
警察庁は、SNSだけでなく、求人情報サイトでも募集ツールに利用されていると警鐘を鳴らす。先日はスポットワークのタイミーに「猫を探す仕事」が掲載され、闇バイトではないかと話題になった。しかし、大手求人サイトにはもっと巧妙なやり口で怪しい仕事が紛れ込んでいるかもしれない。
大手求人サイトを通じて、闇バイトと見られる不審な仕事を勧められたという女性に話を聞いた。
●「コールセンター業務」に応募→「飲食の配膳」→「社長宅で物を移動させて」
新型コロナ禍で、30代の女性Aさん(非正規)は、テレビCMも出している「大手求人検索サービス」で見つけた派遣会社を通じて「コロナ関連のコールセンター業務」に応募した。
その応募には採用されなかったが、その企業から改めて「飲食の配膳」の募集が届いて働くことになった。
数回の勤務をこなすうち、同じ現場で働く責任者から「是非紹介したい仕事がある」と声をかけられ、後日電話で説明を受けたという。
「Aさんだけに特別に紹介したい仕事です」
「うちの社長の知り合いの女性社長宅で働いてもらいます。軽い掃除や倉庫から近くへの物の移動といった簡単なものです」
「給与は他の仕事よりもいい。契約は派遣でも、雇用期間はなく長く働けるし、週あたり40時間近く働けます」
この時点で「個人事業主の案件紹介」と受け止めたAさんだったが、やや引っかかるものを感じた。「個人宅で物を運ぶ」という仕事を聞いたことがなかったからだ。
その女性社長は配膳の現場で見たことがあったが、仕事内容に疑問を感じて、警戒心から「事前に労働契約書をもらえるか」と尋ねた。
すると、責任者は「事前には出せない」とやんわり断りながら「家族を保証人とした書面を提出してください」とまで要求してきたという。
持ち掛けられた話を断ったが、電話を切るまでしつこく食い下がってきたそうだ。
●家族から「危ない仕事だろう」と言われた
Aさんが家族に打ち明けると「運び屋や危ない仕事だろう」と言われ、それ以降は連絡は無視して関わらないことを決めた。
実際にどんな仕事だったのかはわからないが「闇バイトだった疑いがある」と考えている。
「女性を現場で引き抜く形で知り合いの社長宅へあっせんしようとした。労働契約書を提出せず電話で口頭の契約に持ち込もうとした。家族の保証人を立てることを要求し住所などの情報の個人情報を得ようとしてきた点から、犯罪性を強く疑った」
Aさんは冷静に振り返る。
・大手求人情報サイトに募集を掲載し、応募してきた人を別の仕事に誘導
・現場で接することで「見込みあり」と感じたら、本来の闇バイトとわからないように”リクルート”
・本人や家族の情報も握られ、逃げられなくした上で危険な仕事に従事させる
このような構図もありえるが、はたして、今のような状況で「飛躍しすぎ」と言えるだろうか。
警察庁は、犯行グループの手口として「高額な報酬を提示」「業務内容が不明確」「身分証明書の要求」「簡単な仕事をアピール」などを例示している。
有名な大手企業のサービスを通じて見つけた仕事だからと言って安心はできない。自ら「ホワイト案件」「高額報酬」と検索してしまう人ばかりが闇バイトに関与するリスクがあるわけではない。誰しも警戒を重ねることが必要だろう。
配信: 弁護士ドットコム