離婚慰謝料の請求に関して、民法709条の不法行為責任について理解しやすく知りたい方も多いかと思います。
離婚慰謝料の請求は、民法709条で規定された不法行為がある場合に可能です。
「性格の不一致」、「モラハラ」、「不倫」など、離婚の原因は多岐にわたりますが、具体的に民法709条に基づいて慰謝料を請求できる条件は何でしょうか? 条文を読んでも詳細は記載されていないため、分かりやすく説明が求められます。
そこで、この記事では、
・民法709条の不法行為責任とは?
・民法709条に基づく損害賠償請求の要件
・離婚における慰謝料請求が認められるケースと認められないケース
などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
この記事が、離婚問題で慰謝料請求を検討している方にとって、有益な情報となることを願っています。
1、民法709条の不法行為責任をわかりやすくいうと?
離婚の慰謝料を請求するには、相手方に民法709条の不法行為責任が認められなければなりません。
民法709条とはどのような制度なのでしょうか?
民法709条の不法行為責任についてわかりやすく解説していきます。
(1)損害を金銭に換算して賠償させる制度
民法709条には、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という内容が定められています。
簡単に言うと、損害を金銭に換算して加害者に賠償をさせる制度になります。
被害者が受ける損害にはさまざまなものがあり、被害者が加害者に望むことも多様です。
しかし、「壊れたものを元通りにして欲しい」「自分と同じように苦しんで欲しい」などという被害者の訴えを実現することは難しいものです。そのため、被害者が受けた損害を金銭に換算し、賠償金として加害者から被害者に対して支払うことを法律によって定めています。
(2)故意・過失がなければ賠償責任は生じない
民法709条で損害賠償を請求できるのは、加害者に「故意」や「過失」があった場合です。
「故意」とは、他人に損害を与える認識があることを指します。簡単に言えば、「わざと」その行為を行うことです。
また、「過失」は損害が発生することを予想できて回避すべきであったにも関わらず、不注意によって予見せずに損害を与える行為をすることを指します。つまり、相手に損害が発生したことについて落ち度があれば賠償責任が生じるということになります。
一方で、過失責任の原則があるため、相手に過失がなければ損害を受けても賠償を請求することはできません。
例えば、配偶者が独身だと偽っていたため既婚者であることを知らずに不倫をしていたのであれば、不倫相手には故意や過失はなかったことになります。そうすると、配偶者は故意に不倫をしていたので賠償責任が生じますが、不倫相手は無過失なので賠償責任が認めらないのが原則です。
(3)刑事責任とは異なる
民法上の不法行為責任は、刑事責任とは異なるものです。
違法行為に対する制裁や報復、犯罪の予防、教育などは刑事責任の領域であり、これらのことを私人に行わせることは妥当ではないと考えられています。そのため、日本の法律では国にその権限が委ねられており、国によって刑罰が科せられます。
一方で民法709条は民事責任であり、「損害の公平な分担」を目的としています。損害の公平な分担とは、不法行為をした加害者と被害者との間で損害の責任を分担するというものです。
もちろん故意によって損害を与えたのであれば、損害に対して全面に責任を負うことになります。
しかし、過失の場合は加害者に損害の全ての責任を負うほどの落ち度があるとは言い切れないこともあるでしょう。そのため、不法行為責任では当事者間の事情や不法行為の内容、損害の程度などを考慮し、どれだけの責任を負担し合うのが妥当であるのか調整します。
民事責任と刑事責任は同時に成立することもありますが、目的や性質が異なるため、どちらか一方のみが成立することも少なくありません。離婚事件の場合は民事責任のみが生じる典型例だと言えます。
2、民法709条に基づく損害賠償責任の発生要件
慰謝料などの損害賠償請求を行うには、民法709条に基づく損害賠償責任の発生要件を満たしていなければなりません。その要件は、以下のとおりです。
(1)責任能力があること
そもそも損害賠償責任は、加害者に法律上の責任能力があることを前提としてしています。
民法712条には「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知識を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定められています。
幼い子どもは自身の行動の善し悪しを判断することはできません。そのため、子どもの行動によって精神的苦痛を負わせられたからといって子どもに慰謝料を請求できないということになります。
ただし、子どもに責任がなくても子どもの親に損害賠償を請求できるケースもあります。(民法714条)
(2)故意または過失があること
前項で解説したように、民法709条に基づく損害賠償請求では加害者の故意または過失が必要です。加害者に故意や過失がなければ不法行為責任は成立しないため、損害賠償を請求することはできません。
(3)違法な行為をしたこと
民法709条には「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合」に損害賠償が発生すると規定されています。
相手に損害を生じさせる行為であっても、正当な理由による行為や、正当防衛、緊急的な避難行為だった場合は不法な行為だとは認められません。
加害行為に違法性がある場合にのみ損害賠償の請求が認められます。
(4)損害が発生したこと
不法行為による損害賠償責任は、損害が生じた場合に成立します。
損害とは金銭的な損害だけではなく、肉体的・精神的な損害も含まれます。そのため、不法行為によって物が破損や損失された場合だけではなく、負傷した場合や精神的に苦痛を受けた場合も損害を受けたことになります。
肉体的・精神的な損害の場合も、その損害を金銭に換算して賠償することになります。
(5)違法行為と損害発生との間に因果関係があること
損害賠償が認められるのは、違法行為と損害の間に因果関係がある場合に限ります。そのため、損害賠償請求では違法行為と損害の因果関係の証明が必要です。
因果関係が証明できなければ相手を加害者とは言えず、他の要因で損害が発生したと判断されてしまう可能性があります。
配信: LEGAL MALL