撮影罪とは、簡単にいうと人の身体のうち性的な部位や下着などをひそかに、あるいは相手の意思に反して撮影する犯罪のことです。
2023年7月13日から新たに施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下、「性的姿態撮影等処罰法」といいます。)で新設された犯罪です。
性的姿態撮影等処罰法では、いわゆる盗撮行為も処罰対象とされていますが、その他にも様々な行為が処罰対象とされていることに注意が必要です。
そこで今回は、
どのような行為で撮影罪が成立するのか
撮影罪の刑罰
撮影罪の具体例
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
この記事が、性的な撮影がどこから違法となるのかを知りたい方や、撮影罪で訴えられてしまった方の手助けとなれば幸いです。
1、撮影罪(性的姿態等撮影罪)とは
撮影罪とは、簡単にいうと人の身体のうち性的な部位や下着などをひそかに、あるいは相手の意思に反して撮影する犯罪のことであり、正式名称は「性的姿態等撮影罪」といいます。
まずは、撮影罪の構成要件や、撮影罪と盗撮罪の違いについて解説します。
(1)撮影罪の構成要件
撮影罪が成立する構成要件、あるいは類型について、性的姿態撮影等処罰法2条で以下のように定められています。
人の性的姿態等を撮影したこと
正当な理由なく、ひそかに撮影したこと
被害者が同意できない状態で撮影したこと
被害者を誤信させること
16歳未満の子どもの性的姿態等を撮影したこと
それぞれについて、わかいやすくご説明します。
①人の性的姿態等を撮影したこと
撮影罪には、人の性的姿態等を撮影することが構成要件として定められています(性的姿態撮影等処罰法2条1項1号)。
「性的姿態等」とは、以下のもののことを指します。
人の性的な部位(性器、肛門、性器や肛門の周囲、尻、胸部)
下着のうち、性的な部位を直接または間接に覆っている部分
わいせつな行為や性行為が行われている最中の様子
②正当な理由なく、ひそかに撮影したこと
撮影罪の成立には、人の性的姿態等を撮影するとともに、以下に述べるいずれかの類型に該当する必要があります。
1つめの類型は、正当な理由なく、ひそかに撮影する場合です(性的姿態撮影等処罰法2条1項1号)。いわゆる盗撮のケースを処罰するための類型です。
正当な理由としては、医療行為のために必要性がある場合、子どもが上半身裸で水浴びしている姿を親が成長記録として撮影する場合、子どもの相撲大会など上半身裸になるイベントの模様を撮影する場合などが挙げられます。
「ひそかに」とは、相手に気づかれないように撮影することです。
民家や更衣室などを外部からのぞき込んで撮影する場合の他、スマートフォンを差し向けたり、小型カメラや隠しカメラを設置したりして撮影するケースなどが挙げられます。
③被害者が同意できない状態で撮影したこと
2つめの類型は、被害者が同意できない状態で撮影する場合です(性的姿態撮影等処罰法2条2項)。
盗撮でなくても被害者の意思に反した撮影行為を処罰するための類型です。
「同意できない状態」とは、不同意わいせつ罪を処罰する刑法の規定(刑法176条1項)に掲げられた以下の行為や事由を原因として、被害者が撮影を拒否したいと考えたり、撮影をしないように相手に伝えたり、実際に撮影を阻止したりすることが難しい状態のことです。
1.暴行や脅迫
2.心身の障害(身体障害、知的障害、発達障害、精神障害などで、一時的なものも含む)
3.アルコールや薬物の影響で抵抗できない状態
4.睡眠などで意識がはっきりしない状態
5.同意しない意思を形成したり表明したりする拒否したりする時間を与えないこと(不意打ち)
6.予想外の事態に直面したことによる恐怖・驚き(フリーズ)
7.虐待による恐怖感や無力感などの心理的反応
8.経済的または会社的関係上の地位に基づく影響力(上司と部下、教師と生徒など)
により体が硬直するなどして抵抗できない状態にすること
加害者が被害者を同意できない状態に陥れた場合だけでなく、同意できない状態にあることに乗じて撮影した場合も、この要件を満たします。
④被害者を誤信させること
3つめの類型は、被害者に性的な意味合いでの撮影ではないと誤信させたり、特定の人以外には見せないと誤信させたりした場合です。被害者がこのような誤信をしていることに乗じて撮影した場合も処罰の対象となります(性的姿態撮影等処罰法2条3項)。
例えば、性的な目的があるのに「芸術のため」と言ったり、インターネット掲示板などに投稿する目的があるのに「誰にも見せないから」と言ったりしてヌードを撮影したよう場合は、この要件を満たします。
⑤16歳未満の子どもの性的姿態等を撮影したこと
4つめの類型は、16歳未満の子どもの性的姿態等を撮影した場合です。
ただし、被害者が「13歳以上16歳未満の子ども」である場合は、行為者が5歳以上年長であることが要件とされています(性的姿態撮影等処罰法2条4項)。
この要件を満たす場合は、たとえ被害者が同意していても撮影罪が成立することに注意が必要です。
(2)撮影罪と盗撮の違い
撮影罪の処罰対象には盗撮行為も含まれていますが、盗撮以外の撮影行為も処罰対象としている点が盗撮罪とは異なります。
従来、盗撮行為は都道府県が定めた迷惑防止条例で処罰の対象とされていました。
しかし、都道府県によって盗撮の定義や刑罰にバラツキがあったり、飛行機内や特急列車内などでの盗撮では、犯行現場がどの都道府県なのかを特定できなければ処罰できないなど、様々な問題がありました。
また、社会的な実情としても、近年ではスマートフォンや小型カメラを用いた盗撮事件が増加しています。
さらには、性的な部位の撮影を強要され、その画像や動画がインターネットなどで拡散されるケースも急増しています。
そのため、被害者の意思に反する撮影行為の取り締まりを強化する必要性が高まっていました。
そこで、国の法律によって不当な撮影行為を全国一律に処罰の対象とするため、性的姿態撮影等処罰法が新設されたのです。
撮影罪の刑罰も、各都道府県の迷惑防止条例における盗撮罪の刑罰の相場より引き上げられています。
なお、盗撮罪の規定は各都道府県が迷惑防止条例から削除しない限り残ります。
今後の盗撮事件については基本的に性的姿態盗撮等処罰法が適用されると考えられますが、性的姿態撮影等処罰法に該当しない類型で、迷惑防止条例に規定する行為に該当するというような類型は引き続き条例違反として処罰の対象になり得ます。
2、性的姿態撮影等処罰法が規制するケース
撮影罪は、広い意味では性的姿態撮影等処罰法で処罰対象とされた犯罪全体を意味する言葉として使われることもあります。
ここでは、広義の撮影罪、つまり性的姿態撮影等処罰法違反の罪が成立する代表的なケースをご紹介します。
(1)盗撮行為
1つめのケースは盗撮行為をした場合であり、前述した狭義の「撮影罪」がこれに当たります。
性的姿態撮影等処罰法上の正式な罪名は「性的姿態等撮影罪」といいます(性的姿態撮影等処罰法2条)。
(2)提供罪
2つめのケースは、違法に撮影された性的姿態等の画像や動画を第三者へ提供した場合です(性的姿態撮影等処罰法3条)。
この犯罪の正式名称は「性的影像記録提供罪」ですが、俗に「提供罪」と呼ばれます。
「提供」とは第三者に渡すことを指しますが、具体的には画像や動画をメールで送信したり、電子データを記録した媒体(USBやDVDなど)を交付したり、インターネット上にアップロードするなどの行為が挙げられます。
限られた特定の相手に画像や動画を提供しただけでも提供罪が成立しますが(性的姿態撮影等処罰法3条1項)、不特定多数の人に拡散した場合は刑罰が加重されます(同条2項)。
(3)保管罪
3つめのケースは、違法に撮影された性的姿態等の画像や動画を第三者へ提供する目的で保管した場合です(性的姿態撮影等処罰法4条)。
この犯罪の正式名称は「性的影像記録保管罪」ですが、俗に「保管罪」と呼ばれます。
自分で性的な画像や動画を違法に撮影をしなくても、インターネット上で拾った性的姿態等の画像や動画を、さらに第三者へ提供する目的で自分のスマートフォンやパソコンに保存すると保管罪が成立することに注意が必要です。
(4)送信罪
4つめのケースは、狭義の撮影罪に該当する行為と同じ方法で、性的姿態等の影像を不特定・多数の人へ送信した場合です(性的姿態撮影等処罰法5条1項)。
わかりやすくいうと、盗撮中や性行為中の様子をインターネット上でライブ配信(生配信)した場合が該当します。
ライブ配信された性的姿態等の影像を保存するなどして、事情を知りながらさらに不特定・多数の人に送信する行為、つまり拡散する行為も送信罪として処罰されます(性的姿態撮影等処罰法5条2項)。
(5)記録罪
5つめのケースは、性的姿態等の画像や動画を、それが違法に撮影されたものであることを知りながら記録した場合です(性的姿態撮影等処罰法6条)。
この犯罪の正式名称は「性的姿態等影像記録罪」ですが、俗に「記録罪」と呼ばれます。
「記録」とは、インターネット上にアップロードされた違法な画像や動画をダウンロードするなどして、自分のスマートフォンやパソコン、USB、DVDなどに保存する行為を指します。
今まで、違法に撮影された画像や動画をダウンロードする行為を処罰する規定は児童ポルノに関するものを除いてありませんでした。
しかし、性的姿態撮影等処罰法で処罰規定が新設されたため、今後は注意が必要です。
(6)コピーの没収、撮影データの消去・廃棄
以上の5種類の犯罪が立件され、違法に撮影された画像・動画や、それらのコピーデータが記録された媒体物が捜査機関に押収された場合は、検察官の判断で媒体物を没収し(性的姿態撮影等処罰法12条)、データの消去や媒体物の廃棄(同法10条)ができるようになりました。
従来の法律や条例では、刑事裁判で有罪となった事件で裁判所が没収等を命じたものを除き、被疑者・被告人の同意がなければ検察官がこれらの措置をとることはできませんでした。
そのため、被疑者・被告人が同意しなかった場合には、たとえ盗撮罪で有罪判決が言い渡されたとしても、撮影データが記録された媒体物は、基本的にデータを消去することなく被告人に返還されていました。
しかし、性的姿態撮影等処罰法が施行されたことにより、捜査機関が押収した物は検察官の判断で返還不要となり、データを消去したり、媒体物を廃棄するなどの措置をとることが可能となったのです。
このような措置がとられることで、意思に反して性的姿態等を撮影された被害者が、さらにリベンジポルノなどの被害に遭うリスクが軽減されるでしょう。
配信: LEGAL MALL