3、単純殺人罪と区別すべき3つの犯罪
人を殺したケースでも、実際は刑法199条の殺人罪に該当せず、別の犯罪を構成する場合があります。
どの犯罪に該当するかによって刑罰が大きく異なりますので、ここからは単純殺人罪と区別すべき3つの犯罪を見ていきましょう。
(1)自殺関与罪(刑法202条前段)
被害者が自殺をして、その自殺に関与したとされる場合に成立するのが自殺関与罪です。自殺は本人自らが命を絶つことであり、通常ですと加害者は存在しません。
しかしながら、被害者が自殺を決意するまでの過程において、自殺をする意思がない者をそそのかして自殺を決意させ自殺を行わせた場合(自殺教唆)や、自殺を決意している者の自殺行為を援助し自殺を遂行させた場合(自殺幇助)には自殺関与罪が成立します。
自殺関与罪の法定刑は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮です。
(2)同意殺人罪(刑法202条後段)
同意殺人罪の中には、嘱託殺人と承諾殺人の2種類があります。
嘱託殺人とは、被害者の方から自分を殺してくれと行為者に依頼し、それに従って行為者が被害者を殺す場合です。
承諾殺人とは、行為者の方から被害者に殺害を申し込み、被害者がそれに納得した上で、行為者が被害者を殺す場合です。同意殺人罪の法定刑は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮です。
自殺関与罪と同意殺人罪に共通するのは、被害者自身が死ぬことに納得しているところです。それゆえに殺人罪よりも法定刑が軽くなっています。
もっとも、自殺関与罪・同意殺人罪が成立するためには、被害者が自殺の意味を理解して、自由な意思決定能力を有することが必要となります。
そのため、被害者が幼児や心神喪失者である場合は、自殺関与罪・同意殺人罪ではなく殺人罪が成立します。
(3)傷害致死罪(刑法205条)
傷害致死罪とは、暴行行為又は人の生理的機能に障害を与える「傷害」行為をした結果、被害者を、死亡させた場合に成立する犯罪です。
殺人罪と大きく異なるのは、傷害致死罪の場合は殺意がないという点です。
ただし、殺意は「殺すつもりはなかった」と加害者が主張しても必ずしもこの主張が認められるわけではありません。
主観だけでなく客観的な行為態様等を総合的に踏まえ、殺意が有ったのか無かったのか、すなわち、殺人罪なのか傷害致死罪なのかが判断されます。
4、他の犯罪と同時に殺人罪を犯した場合はどうなる?
人を殺した場合、単純に殺人罪が成立する場合もあれば、殺人罪だけでなく他の犯罪が成立する場合もあります。
ここからは、殺人罪と同時に他の犯罪を犯した際、何罪が成立するのかを確認していきましょう。
(1)放火と殺人を犯した場合
住居等に火を放つ放火行為をし、それに加えて殺人を犯す場合、現住建造物等放火罪と殺人罪の両罪が成立します。
この場合、観念的競合(刑法54条1項前段)といって、最も重い方の刑で処罰されます。現住建造物等放火罪(刑法108条)と殺人罪の刑罰は両方とも「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」で同じですが、2つの罪を犯しているので量刑上加重されます。
(2)強盗と殺人を犯した場合
強盗の後、別の機会に殺人を犯した場合、強盗罪と殺人罪の2罪が成立します。
この場合、併合罪(刑法45条前段)となり、刑は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役となります。
これと似たケースで強盗致死罪(240条)が成立するケースがあります。
強盗致死罪は、強盗の機会に被害者が死亡したケースにおいて成立する犯罪です。
殺人罪とは異なり殺意がない場合に成立します。また、強盗行為、すなわち財物を奪う行為から直接被害者が死亡したといえない場合にも成立するのが特徴です。
また、強盗に着手したものの財物の奪取には至らなかった場合(強盗未遂)でも被害者が死亡した場合は、強盗致死罪が成立します。
強盗致死罪の刑罰は、「死刑又は無期懲役」という非常に重いものとなっています。
(3)強制性交等と殺人を犯した場合
強制性交等を犯し、また、殺人も犯した場合、強制性交等罪(刑法177条)と殺人罪の2罪が成立します。この場合、併合罪(45条前段)となり、刑は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役となります。
これと似たケースで成立する犯罪として、強制性交等致死罪(181条2項)があります。
強制性交等致死罪は、暴行又は脅迫を手段として性交等(性交、肛門性交、口腔性交)を行い又はその未遂に至り、その結果被害者が死亡した場合に成立します。
強制性交等致死罪では、性交等をすることに故意はありますが、殺人罪と異なり殺意はない点が特徴です。
強制性交等致死罪の法定刑は、「無期又は6年以上の有期懲役」です。
配信: LEGAL MALL